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2023年のカンヌライオンズから学ぶ、人々の行動変容を促し社会を変革するナラティブ

2023年のカンヌライオンズから学ぶ、人々の行動変容を促し社会を変革するナラティブ

世界最高峰のクリエイティブの祭典といわれる「カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル(以下、カンヌライオンズ)」。3年ぶりの開催となった昨年に続き、2023年の今年は6月19日〜23日の期間にフランスのカンヌで開催されました。70周年となる今年は86の国から26,992点の作品が集まり、そのうち1600作品がPR部門にエントリー。52の受賞作品の中から、PR・キャンペーンの枠を超えて社会的なナラティブを生み出した事例を紹介します。

あらゆるレースにダウン症ランナーの出場枠を設ける、アディダスの「Runner 321」

3月21日が何の記念日か知っている人はどのくらいいるでしょうか? 毎年3月21日は「世界ダウン症の日」であり、国内外で啓発イベントが開催される日です。ダウン症とは21番目の染色体が3つになることで引き起こされる遺伝性疾患のことで、この染色体の数字から3月21日が世界ダウン症として制定されています。

アディダスとカナダの広告代理店であるFCB Canadaが実施したキャンペーン「Runner 321」は、ダウン症患者が世界各地のマラソンレースに参加できるようになることを目的としています。

手始めに、ダウン症患者にして初めてスイム3.8km、バイク180km、ラン42.195kmのアイアンマンレースを完走し、ギネス認定されたクリス・ニキックの映像を2022年3月21日に公開。ニューロダイバーシティ(神経多様性)な人々が「321」のゼッケンを身につけてマラソン大会に参加するムーブメントを醸成するため、ゼッケン画像やキャンペーン啓発用の画像などをツールキットとしてWebサイトより配布し、その普及に努めました。

結果、2023年には世界でも最大級の規模を誇る6つのマラソン大会が「Runner 321」に同意して、ダウン症ランナーの出場枠を設置。「Runner 321」はすべてのマラソン大会にダウン症ランナーの出場枠が設けられるまで続く、企業とランナーの共創キャンペーンといえるでしょう。

風化した戦争の記憶をゲームでよみがえらせる

反ユダヤ主義を掲げ、ナチスドイツが第二次世界大戦中に行ったホロコースト(ユダヤ人の大量虐殺)。もうすぐ戦後80年を迎える現在、各地で再び反ユダヤ主義が台頭しつつあり、欧米各国でさまざまな事件を引き起こしています。ホロコーストを生きのびた人たちも年々減少の一途を辿り、すでにイスラエルのZ世代間ではホロコーストは遠い過去の出来事として風化しつつありました。

ホロコーストの記憶を風化させないために数々の活動を行っているNGOのZikaron BaSalonは、そんな現状を変えるべく「FIGHTING TO REMEMBER」と題したキャンペーンを実施。Z世代に人気のある第二次世界大戦をモチーフにしたゲーム『Call of Duty WWII』の実況を人気ゲーマーが行うことで、若い世代とホロコーストを結びつけたのです。

イスラエル国内の主要メディアがニュースとして取り上げ、Z世代の67%にリーチ。約1500 の学校がホロコースト記念日のカリキュラムにこのプロジェクトを採用して、1日で200万人以上の生徒にホロコーストの実態を伝えました。イスラエルの多くのZ世代はホロコーストの生存者と面会したことがなく、学校でもそのようなカリキュラムが減りつつある状態でしたが、
Z世代の言語"ゲーム"を介在させることでホロコーストのナラティブを語り継ぐことに成功したと言えるでしょう。

インドの国民的スポーツ「クリケット」と「オレオ」の意外な接点

世界100カ国で親しまれているクッキーの「オレオ」。日本でもおなじみのスナックですが、インドで発売されたのは2011年のことです。当然、大国のインドには先行する商品があり、オレオといえどもその牙城を破るのは容易ではありませんでした。

そこでオレオの知名度UPのために実施されたキャンペーンが「#BringBack2011」です。オレオがインドで発売された2011年は、クリケットのワールドカップでインドが優勝した年でもあります。日本ではまだまだマイナースポーツといえるクリケットですが、世界での競技人口がなんと3億人(野球は3500万人)を超えるインドの国民的スポーツです。

このジンクスにあやかって、2022年のワールドカップでインドが再び優勝できるよう、オレオを再発売。パッケージには優勝時のチームキャプテンを起用して、当時の雰囲気を再現しました。さらに髪型も2011年のスタイルに戻して、国内最大手の新聞で優勝時の紙面を再現するといった手の込んだ施策も実施。このキャンペーンに便乗して2011年に人気だった本やドリンクも再発売されるという、まさにインド国民が共有できるナラティブを生み出したのです。これにより、インド国内でのオレオの売上は22%増加しました。

今回紹介した「カンヌライオンズ」の3つの受賞事例はいずれも、歴史と社会性に深く根ざしたナラティブを生み出すことに成功しています。共創の物語を通じ人々の行動を変化させ、自社の商品やサービスを売り込むことはもちろん、その先にあるより良い社会の実現にも寄与する。それが今の時代に求められるナラティブのあり方といえるでしょう。
▼2022年のカンヌライオンズについてはこちらから

「Narrative Genes ~ナラティブの遺伝子たち~」

企業と社会の関係性が見直される時代に注目が集まる「ナラティブ」を
PRストラテジスト・本田哲也を中心に、企業経営、ブランディングの先駆者と共に考えるウェブサイト。

「ナラティブ」とは、企業と消費者(生活者、ユーザー)との「共体験」の物語のこと。
企業経営において重要な「共創」に着目した、新たなアプローチ概念です。

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