1. TOPNarrative GENEs(ナラティブ ジーンズ)
  2. 「創業事業」を手放しても本質は変わらない。ウェディングサービスを手がけるCRAZYの一貫したナラティブとは。
「創業事業」を手放しても本質は変わらない。ウェディングサービスを手がけるCRAZYの一貫したナラティブとは。

「創業事業」を手放しても本質は変わらない。ウェディングサービスを手がけるCRAZYの一貫したナラティブとは。

「オーダーメイドの結婚式」として知られ、TV番組の『情熱大陸』にも取り上げられたのち、一気に脚光を浴びた株式会社CRAZY。創業10年目を経て、あれほどまでに注目された「オーダーメイド」という事業を縮小し、結婚式を起点とした「関係性の構築」を重視しているという。


さらに2020年9月には「世界で最も人生を祝う企業」というビジョンを終わらせ、「私たちは、人々が愛し合うための、機会と勇気を提供し、パートナーシップの分断を解消します」という新たなパーパスを設定している。


一見すると、変わったように見えるCRAZYだが、根底の考え方は変わっていないと語るのが、創業者であり代表取締役を務める森山和彦さん。創業以来変わらないナラティブの要素とCRAZYの使命に迫ります。

今の時代に合った結婚式の本質性を大切に

―CRAZYは、オーダーメイドの結婚式など新しいウェディングの形を生み出してきました。その背景から伺いたいです。

僕らの原点には「本質的で、美しく、ユニーク」という価値観があります。本質的というのは「問い」なんですよね。ですから、「結婚式をやろう」となったら、そもそも結婚式とは何なのかという「問い」から始めることが重要です。

僕自身がそもそも本質を考えたい人間なので、自分の結婚式をやるときに当然のようにそう考えたわけです。すると、既存のパッケージングされたウェディングだとできないことがありすぎた。これはいかん、ということで自分の結婚式を作ったのがすべての原点です。それが26歳のときですね。そこから約3年後、29歳で起業しました。「結婚式はもっと自由であるべき」という考え方からスタートしています。

―これまでのウェディングの形をある意味壊してきた印象があります。

何かを壊そうとしているというよりは、本質性を問うたら、それがある種の非常識に見えたということでしょうね。それを人はクレイジーと呼ぶ。でも、それが本質だよねというのがクレイジーの語源です。

―CRAZYがイメージする結婚式の本質とは何なのでしょうか。

結婚式はひとつの儀式的な意味合いを持っています。伝統という意味ではなく、結婚式で人生を振り返って編集し、新たな何かになっていくといいますか。結婚により家族や家系図という血のつながりが変わっていくわけですから、結婚式には儀式的な意味合いがとても強く、体験することが重要だという本質性がある。

僕は既存のパッケージングされた結婚式にストレスを感じて、「これはいかん」と思ったわけですが、実はパッケージがもっとも本質的だった時代もあります。高度経済成長期で結婚式を挙げたい人たちが多くいた時代、挙げやすくするにはパッケージ化することがもっとも本質的だったわけですよ。披露宴という言葉の通り、披露するという概念が加わることで、より多くの関係者を含めた儀式となりました。ああいうビジネスに発展したのにもちゃんと背景があるのです。

それはそれで素晴らしいのですが、時代が変わったことで、パッケージングによって本質性が阻害されるようになってきた。画一化した内容によって参加者の儀式に対する参加意欲に変化、つまり飽きが生まれたのです。そこで、自分たちの個性や人生、自分らしく感謝を届けたいというある種の時代の欲が生まれました。既存の結婚式が本質的じゃないと言うより、時代背景によって本質性の露出の仕方が変わってくるので、その一つの解としてオーダーメイドウェディングを出したのです。自分たちで結婚式を工夫してゲストに喜んでもらおう、自分たちも楽しもうというオリジナルウェディングがすごく進んだのが、この業界の10年だったと思います。

本質は変わらず、焦点を変えた

―CRAZYは2020年9月に新しいパーパスを発表されました。なぜ、「世界で最も人生を祝う企業」というビジョンから「私たちは、人々が愛し合うための、機会と勇気を提供し、パートナーシップの分断を解消します」と変えられたのでしょうか。
いくつか理由がありますが、単純に言うと経営陣、経営方針が変わったからですね。もともと、CRAZYは僕と共同創業者であり妻である山川咲、二人のナラティブが相互に影響しあってきました。僕は新しいパーパスのような「愛」とか「地球」といった長期的な本質性がすごく好きなタイプで、山川は「人生」とか「一度きり」といった瞬間的な本質性に対する情熱がものすごく高いタイプ。この瞬間と長期の思想が合わさり、独自の文化を育んできました。

その両面のうち、今までは山川のイメージを外に出してきたんです。昔のブランドメッセージも「Crazy or Die」で、熱狂するの?死ぬの?どっち?みたいな感じで、クレイジーですよね。だからビジネスもオーダーメイドで派手だった。

そこから時代性がチェンジしたことから、彼女ではなく僕が好むエネルギーでやっていこうという経営方針に変わった。事業も瞬間的ではなく長期的な事業戦略、要はお客様の人生を事業として実装しようと。

―パーパスを変えたことで、社内には変化がありますか?

目指すものは変わっていないし、ガラッと変わるということはないです。ただ、外からの見え方は大きく変わったと思います。これが狙いですね。とはいえ、変わったと感じてくれている方はCRAZYをよく見てくれている方で、その他の方は今も「山川さんがいるところでしょ、情熱大陸に出てたよね」「オーダーメイドウエディングをやっているところでしょ」というイメージを持っている人もいると思います。

でも、それは今の市場からすると求められていないイメージなんですよ。今の時代、個を主張するだけではなく、もっとつながりの世界の中で緩やかに変わっていったりするじゃないですか。実際に外の見え方は変わってきていますし、新たに入社する人もお客様もやっぱり変わってきています。そうした意味で、ブランドチェンジはよいナラティブの事例だと思っています。

「本質的で美しくユニーク」という根本的な会社の価値観は変わりません。本質は変わらずに、焦点を当てる場所が変わった。また、創業期には愛というものをブランドの中心に置いてはいませんでした。今、置けるようになった背景には時代の変化がありますね。10年前は、愛とか言っていたら怪しまれる雰囲気でしたが、今は起業家がビジネス界で愛について語っていても「うん、そうだよね」という人たちが出てきていますから。


―ウェディング業界はハッピーな言葉でまとめがちな中で、「分断」というワードを使っているところにおもしろさを感じました。なぜ「パートナーシップの分断を解消する」としたのでしょうか。

創業する前から僕らにとって愛は身近なテーマで、社内では常に、どうすれば愛し合えるのか、愛を実現できるのか、をよく語ってきました。人間は、そもそも分断しているという前提に立っています。なぜかというと、体が二つあって、脳が二つあるという物理的な事実から考えているからです。その身体性を前提にすると、そもそも人間同士は常に分かり合えなさと対峙していると言えるのではないでしょうか。

例えば「私は肉を食べたい」という人と「私はベジタリアンです」という人との分断は解決するべきなのでしょうか。解決するにはどちらかを変えなければなりません。できることは、どうやって分断を「解決」ではなく、問題にならない「解消」にもっていくかだと思います。

そういう分断を解消していくことをCRAZYではテーマにしていますし、現場でお客様に提供しているサービスでも実践の機会があります。社員も個人単位でそこに向き合う経験を経て、パーパスにある「機会と勇気」に気がついていくと思っています。

―入社したばかりの社員の方は、「分断を解消する」ことがわからないこともあると思います。社員の中でも話し合っているのでしょうか。

そうですね。話し合いますし、勉強会もします。たとえば、毎週水曜日の午前中に全社で集まって、社内の人間関係やパーパスについて扱う時間を設けているのですが、そこで、パーパスの理解を深めるためにエーリッヒ・フロムの「愛するということ」を学んだりしています。フロムは愛を概念ではなく技術だと言っているのがいいところですね。概念になると宗教的になってしまって難しくなるけれども、愛は技術だから学ぼうと。

―外の人はCRAZYにそういったイメージを抱いていないのではないかと思います。

それは持っていなくていいんです。なぜかというと、外に向けているのはパーパスではなくブランドメッセージなので。ですから、「何をやりたいんですか?」と聞かれたら、ブランドメッセージにあるように「事業を通して愛がみえるようにしたい」と答えます。愛という概念は実際には目に見えません。でも、言葉や空間を通して、目に見えてしまうほどに愛を表現することはできると思っています。

自立は本質。自分で自分の人生を幸せにしよう

―パートナーシップの分断を解消するために、お客様に対してどのようなことをされているのでしょうか。

一番初めのお打ち合わせではヒアリングを行います。ここでは、結婚式に関してというよりも、ふたりの人生や関係性を紐解いていく質問を行います。その後、2回目の面談でヒアリングした内容をもとに「ライフストーリー」という形に編集して、その人たちの人生をプレゼンする。そこで自分の大切なものに気づかれる方もいらっしゃいますし、ご家族のことで涙される方もいますね。

一般的な結婚式でやるプロセスはほとんどありません。
例えば、結婚式のプロセスでは装花を選ぶ時間がありますが、IWAIでは一番旬のお花を生けているため、その時間はありません。他にも高砂がなかったり、席次表がなかったり、色々とないものがあります。
その代わりにゲストへの想いを馳せることに時間をかけていただいています。
準備で一番大変だったことは、ゲスト全員に向けて手紙を書いたこととよく言われますね。
―こうした過程は創業以来変わっていない?

やり方は変わっていますけど、本質に向き合い、その人たちの人生に深く関わることに変わりはありません。結婚式を通して人生を見つめ直した結果、ご家族との関係が変化したという方や転職など大きな決断をされた方もいますね。こういったことをみなさんSNSに書いてくださっているので、また新しい認知にも繋がっています。

CRAZYって、ウェディング業界でおそらく唯一、大手メディアを使っていないんです。ですから、自社でブランドを感じてもらえるようなイベントや記事の発信は創業時から続けています。

―イベントやオウンドメディアで届けたい対象は結婚式を挙げようとしている方たちですか?

そこだけには限らず、あらゆるふうふ関係の悩みを抱えている人、関係性に興味がある人に向けています。結婚式についてだけ発信していても、シンプルにおもしろくないかなっていう。人間としてどうあるべきかという考えに引き寄せられて「CRAZYさん好き」と言ってくれる人が多くいますが、これが結婚式についての投稿だけだと、結婚式を考えている人以外が、いいねする理由も合理性もありません。結婚式の情報を求めている人は少ないですから。

ビジネス界の中で愛を可視化していくのが使命

―CRAZYの使命について教えていただけますか。

使命は「愛を可視化していく」ことだと思います。最近入った社員が、「クレイジーは第二象限を扱っている」とTwitterで発言していました。要は、緊急ではないけどすごく重要なことをやっているねと。そういうことをやり続けている。

人間にとって大切な愛という見えづらいものを、どうビジネスとして扱っていくかですよね。このビジネス界で、どう愛を可視化していくかが使命だと思います。

―その使命を持ったCRAZYの、今後の展望はいかがでしょうか。

今、力を入れているのはカップルが使うアプリケーションの開発です。詳細は省きますが、CRAZYのブランドでこれを出すの?と思われるようなものです。これが今とても楽しみですね。

そのあと何をしていくかというと、結婚の機会のアップデートですね。これがミッションだと感じています。儀式的にとても意味があることですが、ビジネスがサスティナブルじゃないので、結婚式を行う人も減っています。とてももったいないですよね。ですから、結婚の機会を最大化して、もっと多くの方々がやりたいなと思える商品やサービスを作ろうとしています。

多様なニーズに応えながらも、コアな部分は、自分の人生を振り返って編集することです。ご時世的にもライフミーニング的なことを考えざるを得なくなってきているのかなと。形だけやって「意味あるの?」という結婚式ではなく、もっと人生にとって意味がある、本当に感動していただけるようなものを、どうやったらビジネスとして拡大再生産できるか。そこが戦略の骨子であり、今後の展望です。

「Narrative Genes ~ナラティブの遺伝子たち~」

企業と社会の関係性が見直される時代に注目が集まる「ナラティブ」を
PRストラテジスト・本田哲也を中心に、企業経営、ブランディングの先駆者と共に考えるウェブサイト。

「ナラティブ」とは、企業と消費者(生活者、ユーザー)との「共体験」の物語のこと。
企業経営において重要な「共創」に着目した、新たなアプローチ概念です。

TOP