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旧来型のマーケティングではもう「愛されない」。「ながら」時代のマーケティング・PRのあり方と「声」の力

旧来型のマーケティングではもう「愛されない」。「ながら」時代のマーケティング・PRのあり方と「声」の力

「音声プラットフォーム元年」と言われ、多くのサービスが世に登場し音声コンテンツが脚光を浴びた2021年。そんななか、音声プラットフォームの可能性に早くから着目し、2016年からサービスをスタートしているのが音声プラットフォーム「Voicy」です。現代だからこそ威力を発揮する「音声」の魅力とは、そして今、企業のPR・マーケティング・ブランディングにおいて重要なこととは。株式会社Voicy 代表取締役CEOである緒方憲太郎氏と戦略PRの第一人者である本田哲也が、企業にとって重要なナラティブの構築について語り合います。

加工せずに「人の魅力」を届けたい

本田:現在、音声プラットフォーム「Voicy」を展開されていますが、立ち上げに至った背景は何だったのでしょうか。

緒方:僕がボイステックや音声について取り組み始めたのは2016、17年ごろです。Voicyを作ったのは、人を産地直送で届けたいと思ったからなんですよ。

昔から人がめちゃくちゃ好きで、面白い人が集まるといつの間にかそこにコミュニティができているという状態がとても好きなんですけど、人の魅力って、編集して記事に出す時点でフィルターがかかってしまうじゃないですか。それよりも、何も隠さずに「その人」を出すのがめちゃくちゃに面白いはずだと。

本田:それが産地直送。面白いですね。
緒方:僕らはVoicyを音声サービスというよりも、「人を届けるメディア by ボイス」だと思っています。最近は、音声のスペシャリスト的に言われることも多くなってきましたが、Voicyは何の加工もしないでいいという見せ方をしていまして、僕はBGMや効果音もなくていいと思っているんですよね。

本田:いきなり確信めいた面白い話を聞けました。2021年は音声プラットフォーム元年と言われ、緒方さんの著書『ボイステック革命』も、注目されましたよね。音声プラットフォームを、どちらかというとプラットフォームやテクノロジー側の話として捉える人も多い中、今の緒方さんの話だと「人間ありき」ということですね。

愛され方は「100%没入する」から「ながら」へ

緒方:僕、本田さんのご専門であるPR、ブランディングやマーケティングが非常に好きなんです。そこで今日は、これまでPRやブランディングで言われてきた「愛されてコミットされる」というセオリーが、時代とともに変わってきていることについて、ぜひお話ししたいと思っていました。というのも、「愛される」という定義そのものが変わってきてるんじゃないかと思うんですよね。

例えば若い子たちに話を聞くと、漫画は嫌でアニメがいいって言うんですね。その理由は、アニメは見ながら別のことができるからです。漫画は手も頭も100%取られる。そこにものすごく搾取されていると感じ、ストレスだと。だから、スマホをいじれない映画館もつらいと言うんですね。

一方で今の企業のブランドプランナーの人たちは、ユーザーの反応より大体2世代ほど遅れている。相手に自社のサービスに没頭してもらい、その人の100%を奪えることが1番の愛情だと思っている。定義自体がそもそもずれているんですよね。動画でも、「没入感がないのはどうする」とか、「ながらだったら効率が下がる」と言われるんですが、実はほとんどみんな何かをし「ながら」、という世の中になっている。
本田:それは鋭い指摘ですし、ほぼ同感です。没入させられるはずだというのは、企業側の思い込みなんですよね。年配の人って、目の前でスマホをいじられたりするとすごい反応をされますよね。なぜなら、相手が集中していないと感じるから。でも、別に集中していないわけじゃなくて、マルチタスクでやることが当たり前になっているだけ。だから、実はちゃんと話を聞いていたり会議に参加していたりするんだけど、年配のビジネスパーソンだと「100%没入せよ」という方が多い。

だから、緒方さんのおっしゃった「企業は2周遅れている」というご指摘はその通りで。可処分時間をどう奪うかという話だと、どこまでいってもシェア争いから脱しきれない。多動的な、マルチタスクの一部に入り込めればいい、という発想を持ちにくいんですよね。

緒方:企業はコンテンツを出す方が主役、受け取る側が脇役だと思って世界を作っている。でも、受け手は基本的に自分が主役だと思っていて、自分の元にコンテンツが届くと捉えている。ですから、企業はいかに受け手が主役の人生を歩んでいる中に寄り添うかだと思うんです。

本田:それがまさに、僕がナラティブであることの大事なポイントとしていつも最初に言っていることなんです。主役の転換というか、発想を変えようという部分ですね。今、緒方さんは脇役とおっしゃったんですけど、企業は脇役どころかオーディエンスだと思っていますから。だから、自分のストーリーを押し付け、「もっと没入してよ」と言うんですが、逆ですよね。個人のナラティブは生活者側にありますから、逆にその人の人生、生活にちょっと入らせてもらえませんか?っていうスタンスにならないとダメだと思います。

緒方:そうですね。Voicyのサービスは、発信者であるパーソナリティとリスナーがいて、企業のスポンサーはこのコミュニティを支援する仕組みです。パーソナリティが「この放送は〇〇スポンサーがお届けしてます」と言うんですが、放送回数や喋り方は自由。ただ、パーソナリティがスポンサーに「ありがとう」と言うと、リスナーもその企業に対して「ありがとうございます!」と共感するんですね。

例えると、飲み屋に行ったときに「ここ出しとくね」と言った人みたいな感じなんですよ。そういうときって、「ありがとうございます!今度何かあったらお返しします!」という空気になりますけど、「俺の飲み会へようこそ」みたいな感じだと「いやいや、ちょっとうざいな」となるじゃないですか。

本田:ああ、上手い例えですね。わかりやすいです。

嫌われる勇気を持って、自分らしさを追求する

緒方:僕はVoicyでもオンラインコミュニティや、自分のオンラインサロンを3年以上運営したりしているんですが、年齢だけでなく、世の中からの反応が十人十色になってきていると感じます。その中で、人の属性もすごく変わってきたなと思っています。全員が良い人じゃなくなったというか。

ゲームをやっている人たちが増えましたが、ゲームって敵がいて、暴力で倒したらご褒美をもらえて正義になるものが圧倒的に多い。だからなのか、敵を倒すことを普段からやりたくなっちゃった人がすごく増え、企業が敵認定されてしまったりするようになったのかなと。

そんなゲームの世界にビジネスもPRもかなり寄ってしまったと思う一方、今までの世界を引きずりつつもコミュニティやストーリーに没入する人たちもいる。でも、PRの人たちは古いから、こうした変化についてこられず、ほぼ広告の効果がないようなものにお金を払っていたりする。

本田:自分で判断ができない企業が多いから、広告やPRの効果をどう図るかと言うと「露出測定」とかになっちゃうんですよ。それ以外のやり方にコミットするのは本当に勇気の問題なんですよね。

緒方:そうです。勇気なんですよ。今って、簡単にものを買わなくなったので、買ってもらうためには好きになってもらわないといけないじゃないですか。そうすると、ビジネスがどんどん恋愛に近くなっていく。女の子を口説くのに、いいお店にいくとか、滞在時間を増やして一緒にいる時間を増やしても効果はあまり変わらないのと同じなんです。

結局、自分らしくやっていくしかないわけなんですが、そこを恋愛コンサルタントが「じゃあ3回行ったら、こういうレストランでご飯を食べて、このパターンでうまくいきますよ」と言ってくる。でも、コンサルタントも本当にモテる男性を作る人とモテない男性にコンサルをするパッケージ化商品を狙っている人たちに分かれるので、見極める必要があります。

これと同じで、時代の変化と共に人の心はどんどん変わっていくはずなのに、企業がそこについていけない情弱な状態になりやすいと思うんですよ。「モテないあなたはとりあえず清潔感を保ちましょう」みたいな無難な話になる。でも、無難にしておけばモテるわけでもない。アメリカではトップ企業が他が真似できないぐらいのブランディングやファンコミュニティを作っているんですが、そこまでやる勇気が必要だと思います。

本田:それを言い換えるとパーパスになる。「社会的な存在意義」というと大げさにも聞こえますが、いっぽうで僕は「自分らしさ」みたいなものが大事だと思っていて。モテたいのはしょうがない。でも、自分らしさの追求をないがしろにして、「デートってどこに行ったらいいですかね?」と聞いても意味がない。

緒方:「自分らしさ×勇気」なのかもしれないですね。

本田:そうそう。だから、ある種の「らしさ」が根本にあるはずで、それをちゃんと打ち出せば好きになってくれる人は絶対に一定数いる。だから、PRの話に戻すと、僕は取ってつけたようにキレイなストーリーをPRするよりも、自分らしさのPRをせよってアプローチの方が今はいいと思っています。

お金をかけた添加物がバレる時代

本田:らしさのPRのためにも、私は言っていることとやっていることが一致していることがすごく大事だと考えています。

緒方:そうですね。うちは社内報も全部声でやっているんですよ。

本田:声によって共感度は変わるものなのでしょうか。

緒方:圧倒的に違うのは発信者が楽なことですね。例えば、僕が「今日、本田さんという人に会って、みんなと共有したい話があったんだよね」というのは、文字で書くと長くて鬱陶しいし、書く側の僕も時間がかかるんですよ。でも、喋るなら5分10分でできて、気持ちの高揚まで伝えられます。

聞く方はながら聞きができるので、時間を奪われた感じがない。あとは、本人らしさがフレッシュに伝わるので、嘘はないだろうなと思ってもらえていると思います。

本田:緒方さんに会ったら聞きたいなと思っていたのが、音声だからフレッシュに伝わる、楽だ、という一方で取り返しがつかなくなることもあるじゃないですか。こういう対談でも、最後に編集していただいて、言い過ぎたところを直すことがありますよね。音声だとそこができなくなると思うんですが、そのあたりはどうしているんですか?

緒方:そこは、どんなときでも恥ずかしくない発信をする人が活躍する社会になると思うんですよ。そして、間違えたときには「ごめん」と言える人が正しくなってくる。それはテキストであるTwitterでも同じで、ツイートを消しても発信した事実は消せないんですよ。人間力がそのまま問われちゃいますね。

本田:それは本質的ですね。

緒方:そうです。お金をかけて編集者を付けたら上手くいってる、俺イケてるという人は、もう1回鍛え直していただくというか。

本田:それはわかるなあ。さらけ出せる力。

緒方:そうですね。これはファストファッションの流行にもあると思っています。昔はハイブランドの服を着ていれば、少々おなかが出ていてもかっこいい人みたいに言われていたけれど、今はちゃんと鍛えてユニクロの服を着た人たちの方を良しとする感じもありますから。お金さえあれば添加物を入れて何とかなる世界から、添加物も受け手にバレる世界になったなと。

本田:バレますよね。ですから、大企業は本質的にそこで苦しんでいると感じています。

音声は「ながら」で受け手の生活に寄り添える

本田:緒方さんは、音声プラットフォーム、またはVoicyの今後についてどう見ていらっしゃるのでしょうか。

緒方:社会の流れがどんどん早くなっていくことはみんな想像がついているのに、それに対応できる人は限られてくると思っています。インターネット上での貧富の差が激しくなり、普通にやっていたら倒産する企業がかなり増えるでしょうね。本質的にいいものかどうかよりも、好きになるかどうかの方が強くなってきている中で、そこにどれだけ予算をかけられるかどうかだと思うんです。

クリエイティブでかっこよくしていくことももちろんいいんですが、コミュニケーションで自分をきちんとさらけ出していくことや、ユーザーさんの時間を奪いすぎないという、「ながらで入る」ことがすごく重要になってくると思っています。

例えば、映画を見ていたら副音声で入るとか、道を歩いていたらQRコードで道案内が耳に入ってくるとか。カップラーメンのふたをめくったらQRコードがついていて、3分間の面白コンテンツが聞けるとかっていう風にしたら、その3分のコンテンツが楽しみになってくるかもしれないし。そうした、人の生活を邪魔せずにギブできる会社が、いつの間にか染み込んでいく、それがこれからのトレンドになるんじゃないでしょうか。

そうしたとき、音声には大きな可能性があると思っています。昔のテレビCMで、映像は覚えていなくても声は覚えているものがあったり、テキストを読んでいるとその人の声で再生されたりするくらい、耳って蓄音しちゃうんですよね。

本田:インセプション的な。

緒方:ええ、本当にそんな感じだと思うんですよ。発信者は勇気をもって嘘をつかず、さらけ出すスキルを上げないといけない。さらに僕はビジネス設計をするときに、ストックとフローについて考えるんです。すぐにコンバージョンするのはフローで、ストックは将来の収益になる積み上げなんですよね。これがPRやコミュニケーション。ブランディングにも活きる。それを古くからやっているのが、プロ野球チームやレーシングチームのスポンサーです。彼らが全力でがんばっていることをサポートする。その中で、ファンは何となくスポンサー企業を好きになって、例えば「ヤクルトを飲もう」となる。

本田:本当に健全な意味でのスポンサーとは、ロゴを出すというだけではなく、そういうことですからね。ボイステックの話でも、やはり人間回帰であり、人様を邪魔しないやり方っていう切り口で聴いた方がしっくりきますね。これからの時代は、「なるべく邪魔しない工夫に投資できるか」なのかなと。

ただ、それは遠慮がちに入っていけってことでもない。堂々としていていいんだけど、その人はその人で人生で大切にしているものがある。行動の背景になっているナラティブがある。だから、その人らしく消費してもらえるような形にせよというか、それができないならやめろと。

緒方:そうですね。「俺なんかと遊びにきてくれてありがとう」みたいなのじゃダメなんですよ。そうではなくて、その人らしい生活自体に寄り添って入っていく。「君、楽しそうにしてるね。一緒にいていい?」と言って、「すごいじゃん。俺もこんなことあるんだよね」と入っていく。

本田:それがまさに「共創構造」ですよね。本日は非常に面白いお話を聞けました。ありがとうございます。

「Narrative Genes ~ナラティブの遺伝子たち~」

企業と社会の関係性が見直される時代に注目が集まる「ナラティブ」を
PRストラテジスト・本田哲也を中心に、企業経営、ブランディングの先駆者と共に考えるウェブサイト。

「ナラティブ」とは、企業と消費者(生活者、ユーザー)との「共体験」の物語のこと。
企業経営において重要な「共創」に着目した、新たなアプローチ概念です。

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