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アイドルやインフルエンサーとも違う。フラットな関係性と「共感」から生まれる、ライブコミュニケーションアプリ「Pococha」のナラティブ

アイドルやインフルエンサーとも違う。フラットな関係性と「共感」から生まれる、ライブコミュニケーションアプリ「Pococha」のナラティブ

有名アイドルやインフルエンサーが活躍する一般的な配信プラットフォームと異なり、会社員や主婦・主夫など一般人ライバーが多く活躍する、DeNAのライブコミュニケーションアプリPococha。PVやimpが主要価値となるメディアになることをあえて拒否した戦略で、多様なライフスタイルのライバーが活躍するプラットフォームとして独自のポジションを築いています。2017年に誕生し、2023年3月時点での累計ダウンロード数は486万。Pocochaのプロデューサー水田大輔氏と本田哲也の対談を通じて、ライバーとリスナーのフラットな関係性と「共感」から生まれるPocochaのナラティブを紐解きます。

居酒屋よりも簡単に「仲間」を見つけられる場所

本田:Pocochaは他の配信サービスと異なりライバーとリスナーのフラットな関係性に特徴があると思います。Pocochaのリスナーさんは、皆さんどういった理由からPocochaに参加するようになったのでしょうか?

水田:メディアでPocochaが紹介されるときは、アイドルとファンの関係になぞらえられることが多いですが、多くのリスナーさんは「特定のライバーが好きだからやってみた」といった理由ではなく、「共感」を求めてやってくる人が多いのかなと思っています。現在、Pocochaはマーケティングとして「話せる相手がいて、 話せる場所がここにあります」といった訴求を続けています。

インタビューでリスナーさんに「特定のライバーを応援するようになったきっかけ」を聞くと、「初めての自分に対し、優しく自然な形で声をかけてくれたから」とか「まわりのリスナー含めて、居心地がよかったから」といった回答をされる方が多いんですね。仕事で疲れているときに何気なく入ったライバーさんの配信で「今、お仕事帰りですか?」とか「もう寝る前ですか?」とか、普通の会話から始まるコミュニケーションに居心地のよさを感じて常連になる。そういったケースが多いですね。

本田:行きつけ居酒屋のような、他者と気軽に交流できるリアルな空間ともPocochaは違うのでしょうか? あるいは、そういったサードプレイス的な場所の代わりにもなっている?

水田:やっぱり、居酒屋で常連になるにはそれなりに高いハードルがあるんですよね。店員さんの顔を覚えるのも、他の常連客を覚えるのも、それなりに長い時間軸での物語の共有が必要になりますから。それに対してPocochaは常連になるハードルが圧倒的に低いんです。週4〜5日で居酒屋に通うのは難しいですが、Pocochaでは2〜3日同じライバーさんの配信に顔を出せば、他のリスナーさんとの会話が自然に生まれます。オフ会を開催するコミュニティもあるようですが、、主宰者のライバーさんが帰宅した後でも4次会、5次会が開かれてリスナーさん同士で盛り上がる、なんてケースもあります。

本田:それはおもしろいですね。ライバーさんは主役でありながら、主役でもないという。

水田:ライバーさんは皆が集まる場所をつくる存在なので、共感できるリスナーさんがいれば無理に最後までいる必要はないんです。配信中も当のライバーさんそっちのけで、リスナーさん同士が盛り上がっていることも普通にありますから(笑)。

特別な人でなくても、誰もがライバーになれる世界

本田:やはりお話を聞くと、Pocochaのライバーとリスナーの関係は、一般的なアイドルとファンの関係とは異なりますね。起点からして別物であることが分かりました。

水田:Pocochaではリスナーさんが長い付き合いのライバーさんに対して「ちょっと仕事が忙しくなるから、しばらく来られなくなりそう」といったことも普通に伝えています。それに対してライバーさんも「じゃあ、落ち着いたらまた遊びに来てよ」と返すわけで、アイドルやインフルエンサーとファンの関係とは少し違うのかなと思っています。

本田:確かに、通常のアイドル、インフルエンサーとファンの関係だったら、わざわざ来られなくなることを伝えたりはしないですよね。Pocochaならではの関係性といいますか、それは設計思想として最初から意図していたのでしょうか?

水田:Pocochaというプラットフォームをビジネスとして成立させている要因を探るために、リスナーさんとライバーさんにインタビューをしたことがあります。そこで「お互いがお互いに救われている部分があるんです」という発言を耳にして、Pocochaにはライバーさんもリスナーさんも互いに欠かせない存在であることに気づいたんです。

そこからコンセプトを「誰もが誰かの特別な存在になれる」という方向に切り替えました。そういった打ち出しをすることで、ライバーさんは決して特別な人ではない「今の楽しい場所を分かち合う存在」という認識に変わっていきます。そこにリスナーさんが歩み寄るだけでフラットな関係が構築されます。

本田:ここ数年でSNSフォロワー数が数万〜10万程度のいわゆる「マイクロインフルエンサー」が注目されています。Pocochaの人気ライバーを見る限り、このマイクロインフルエンサーとも微妙に異なる気がするのですが、その差異はどこにあるのでしょうか?

水田:Pocochaではライバーさん向けのイベントを開催しています。DeNAは球団を持っているので、始球式への参加とか、渋谷の街中のサイネージへの出演とか、いろいろありますが、どのイベントに出演するかはライバーさんがリスナーさんと相談して決めます。例えばインフルエンサーやアイドルだったら、どのオーディションに参加してどんなテレビ番組に出るかは基本的にマネージャーと話し合いますよね。さらに、落ちたオーディションについては口外しないでしょう。

Pocochaのイベントの結果を分析して分かったことですが、一度落ちたイベントに再挑戦すると入賞する確率が上がるんです。やっぱり、一度悔しい思いをしているので「今度こそ!」という気持ちで挑むから、再挑戦で成功する確率が高くなるようです。僕らは「夢を叶える」という物語の側面はもちろん、それだけではない失敗から成功に至るまでの過程もナラティブなのではないか考えています。

ユーザーを巻き込みPocochaの秩序をコントロールする

本田:そういったPocochaで展開されるナラティブに対して、運営としてはどの程度コントロールしているのでしょうか? まったくの介入なしでは無法地帯になってしまいます。Pocochaの運営において、水田さんが気をつけていることを教えてください。

水田:Pocochaではすべてのライバーさんとリスナーさんに向けたコミュニティハンドブックを用意しています。配信中にライバーさんはどう振る舞えばいいのか、リスナーさんはどう振る舞えばいいのか、Pocochaをよりよい場所にするための行動指針を説明した内容です。運営としてプラットフォームを一方的にコントロールすることはありません。ユーザーさんが自発的にプラットフォームをコントロールできる仕組みを構築しています。
本田:御社自体もフラットで三番目の立場といいますか、ユーザーも交えてPocochaを運営していくわけですね。

水田:Pocochaの運営は国づくりだと思っています。国づくりとは政治であり、政治はみんなに投票してもらわないと駄目なんですけれど、そこに悪意を持った人、なにも考えてない人が混ざってしまうのは好ましくありません。ですから当然、すべての運営をユーザーに委ねることはできないので、Pocochaについて本気で考えてくれる人に協力いただく必要があります。

Pocochaに新しい機能を搭載するときなどは、実際の企画担当者が表に出てユーザーさんとディスカッションを重ねます。以前はこの役割を自分が担っていましたが、最近は頼れる仲間も増えてきたので仕事を任せることも増えてきました。本当にPocochaの熱心なユーザーさんであれば、おそらく10名くらいのPococha社員の名前をいえるはずです(笑)。プラットフォームを運営している僕らも、ユーザーの皆さんと共創している部分があるんです。

Pocochaの場合は運営が日々努力していることをユーザーの皆さんも把握しているので、なにか不便が発生した際も「運営さんが大変なのも分かるから」といった具合に許容いただける関係性で、それがPocochaの秩序につながっていると考えています。

これはライバーさんとリスナーさんの関係にもいえることで、例えばとある人気YouTuberが毎日の動画配信が難しくなってしまったとします。そうなると、スーツ姿で正座をしたお詫び動画をアップしたりしますが、これは立場の差があるから正装して謝罪動画を撮るという結果になるんです。

本田:コンテンツ提供者としての責任を感じているわけですね。

水田:Pocochaが「配信を定期的にお休みできる仕組みをつくります」といった発表をしたら、リスナーさんからは「そうだよね、そういう仕組みも必要だよね」といった理解の声が上がるし、ライバーさんからは「休むことは必要だけど、リスナーさんが納得できる範囲で休みたい」といった互いを気遣う声が上がります。そこを調整するのが僕らの役割です。

ライバーさんもリスナーさんも「Pocochaという場所をずっと守っていきたい」という想いを共有しています。この想いにPocochaは支えられています。

自尊心を高められる場所としてのPococha

本田:私の著書『ナラティブカンパニー』にも書いたことですが、ナラティブが生まれるには「共感」を超えて「共体験」が重要です。共感には一過性の面があるのに対して、共体験はより深く継続性を持つ。ナラティブが成立するためにはステークホルダーが同じ経験をしていることが重要であり、それは同じ価値を全員が共有しているから起こることです。Pocochaが大事にしている根源的な価値とはなんでしょうか?

水田:Pocochaに参加することで新しい仲間ができたり、自分に自信が持てたり、そこにはいろいろなメリットがあるかと思います。けれどもそこで「一方的に施しを受けている側でいいのか?」といった想いを抱く人もいるでしょう。周囲から共感してもらうことで自分は救われるけれど、自分が相手に共感することで相手を救うこともできるのがPocochaです。

人としての自尊心やアイデンティティみたいなものが明確に高められる場所。それが多くのユーザーさんにPocochaが提供している価値だと考えています。Pocochaの場合は配信に行くだけで、まずライバーさんが喜んでくれて、他のリスナーさんも喜んでくれます。自分は人に求められているという自信にもつながります。

本田:「互助的な場」ということですね。皆が明確に意識しているかどうかはともかく、ライバーさんもリスナーさんもその場所の大切さを共有している。

水田:Pocochaではリスナーさんが他のリスナーから勧められてライバーになることがよくあります。配信に人が集まってくれるかが心配でも「俺が行くから大丈夫!」みたいな感じで、本当に宅飲み感覚で配信が始まるんですよ。

共感という言葉の言い替えで「他者の靴を履く」という表現がありますが、例えば男性がヒールを30分履いてみたら女性の大変さが分かると思うんです。これと同じでリスナーさんがライブ配信をすることで、ライバーさんの気持ちが実感できるようになります。

結果として、ライバーさんが「今日はあと30分だけ配信します」といったら、前までは「もっと続けてほしい」だったのが、「そろそろ休んでもいいんじゃない?」「明日にしようよ」と気遣うようになるんです。この共感って、通常のインフルエンサーとファンの関係ではなかなか起こらないと思います。インフルエンサーとファンの距離が近づけばもちろん共感は強まるけれど、その立場が入れ替わることはないでしょう。

本田:「明日からあなたがインフルエンサーになりなよ」といわれても無理ですからね。聞けば聞くほどPocochaは深い設計思想に支えられたナラティブがあると感じました。今日はありがとうございました。

水田:こちらこそ、ありがとうございました。

「Narrative Genes ~ナラティブの遺伝子たち~」

企業と社会の関係性が見直される時代に注目が集まる「ナラティブ」を
PRストラテジスト・本田哲也を中心に、企業経営、ブランディングの先駆者と共に考えるウェブサイト。

「ナラティブ」とは、企業と消費者(生活者、ユーザー)との「共体験」の物語のこと。
企業経営において重要な「共創」に着目した、新たなアプローチ概念です。

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