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2022年のカンヌライオンズ受賞事例に見る、世界最先端のナラティブ

2022年のカンヌライオンズ受賞事例に見る、世界最先端のナラティブ

毎年6月に南仏のカンヌで行われる「カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル」は、世界最大規模の広告・コミュニケーションフェスティバルとして知られています。カンヌライオンズは一週間にわたって開催され、世界的に活躍するコミュニケーションクリエイターやグローバル企業のCEOおよびCMOをはじめ、ソーシャルメディア企業のリーダーや哲学者、ミュージシャン、芸術家など多彩な人々が集まります。2009年からはPR部門が設けられ、世界最高峰のPR事例が一同に会する機会となっており、受賞作に対する注目は年々高まっています。

新型コロナウイルスの影響により、現地では3年ぶりの開催となった2022年度のカンヌライオンズには87カ国から合計25,464点の応募があり、PR部門には1,488点がエントリーされました。今回はその中で、受賞した二つの事例が持つナラティブの力に着目してご紹介します。

日照時間の少ないカナダにビールで“日光”を届ける

2021年よりカンヌの舞台で存在感を増してきた「AB inBev(アンハイザー・ブッシュ・インベブ)」は、日本でも知られるコロナビールやバドワイザーなどを扱う世界最大の醸造会社です。ベルギーのルーヴェンに本社を置き、500を超えるブランドを世界150か国以上で展開しています。

コロナが開発した「Corona Sunbrew 0.0%」は2022年に大きな注目を集めた商品です。世界初のビタミンDを配合したノンアルコールビールで、「Sunshine, Anytime(いつでもサンシャイン)」というキャッチフレーズとともに、カナダで先行してリリースされました。なぜ、メキシコのビールであるコロナの商品が最初にカナダでリリースされたのでしょうか。それは、コロナ社のブランドストーリーと大きな関わりがあります。

それを紐解いていくために、まずは同社のグローバル副社長Felipe Ambra氏の発言を紹介しましょう。

「ビーチで生まれたブランドとして、コロナは企業活動のすべてにアウトドアを取り入れている。人々が最もわずらわしさから切り離され、最もリラックスできる場所がアウトドアだと信じているからだ。アウトドアで人々が最も愛するものの一つが太陽の感覚であり、コロナブランドは人々のその感覚を思い出させるために常に技術革新を続けている」。

冬のカナダは日照時間が短く、曇りがちの天気が多いシーズン。さらに新型コロナウイルスの影響で在宅勤務も増え、例年以上に日光に当たる時間が少なく、ビタミンDの不足が懸念されていました。そんな時期にコロナの商品を通して少しでも太陽を感じてもらうべく開発されたのが「Corona Sunbrew 0.0%」だったのです。「Corona Sunbrew 0.0%」は、カナダで1日に必要とされるビタミンDの30%を含有しています。

同社のグローバル副社長Felipe Ambra氏はこう続けています。

「ビタミンDを配合した初めてのノンアルコールビールであるCorona Sunbrew 0.0%を消費者に提供し、人々がいつでも自然とのつながりを再開するのを手助けでき喜んでいる」

「Corona Sunbrew 0.0%」は、機能的には「ビタミンDを配合したノンアルコールビールの新商品」に他ならなりません。しかし、企業のパーパスと深く結びつき、さらに世界規模で発生したビタミンDの欠乏という課題とも結びつくことで、多くの人々を巻き込む魅力的なナラティブを紡ぎ出すことに成功したのです。

洪水被害を受けたワインを、あえてそのまま販売する

ドイツを代表する赤ワインの産地であるアールバレーは、2021年の夏に大規模な洪水被害に見舞われました。出荷を待っていた多くのワインが流され、現地のワイン生産者は壊滅的な打撃を受けたのです。しかし不幸中の幸いと呼ぶべきか、被害は受けたもののボトルの破損を免れたワインが20万本も発見されました。中身のワインは無事だけどボトルやラベルは泥だらけで、とても商品として出荷できるものではない。けれども、みすみす破棄するのはもったいない。

通常の感覚であれば、多大な労力と費用、時間はかかりますが、ボトルを一度洗浄して泥を落としてから商品として流通させるでしょう。しかし、アールバレーのワイン生産者が取った行動は驚くべきものでした。それは泥まみれのワインを「FLUTWEIN(Flood Wines)」と名付けそのまま販売したのです。

「産地の復興」と「ワイナリーの再建」で消費者を巻き込む

商品をクラウドファンディングで販売したところ、洪水被害に見舞われたワイン生産地を救うというストーリーが受け入れられ大成功。結果的に通常の45倍もの高値で完売をしました。

販売されたワインだけを見れば単なる泥だらけのワインかもしれません。しかし、その背後には「洪水に見舞われたワイン産地の復興」と「現地のワイナリーの再建」、さらには「自然への畏怖」というナラティブが見て取れます。そして、あえて洗浄せずに泥だらけのまま販売したワインボトルが人々に当事者意識を持たせ、ビヘイビアチェンジに成功したといえるでしょう。

明確なナラティブが泥だらけのワインの付加価値となり、消費者との共創を築き上げました。このクラウドファンディングはドイツで最も成功した事例として、多くの人の知るところとなったのです。さらにワイナリーはこのクラウドファンディングも含めた売り上げで、翌年も生産準備を行うことになります。まさにナラティブがこの地の産業を破滅の危機から救う結果となりました。

大胆な発想とクリエイティブで甚大な洪水被害を乗り越えた本事例は、「この地の産業を壊滅の危機から救う」というナラティブに生活者も参加することによって生まれた、共創の物語と言えるでしょう。

「Narrative Genes ~ナラティブの遺伝子たち~」

企業と社会の関係性が見直される時代に注目が集まる「ナラティブ」を
PRストラテジスト・本田哲也を中心に、企業経営、ブランディングの先駆者と共に考えるウェブサイト。

「ナラティブ」とは、企業と消費者(生活者、ユーザー)との「共体験」の物語のこと。
企業経営において重要な「共創」に着目した、新たなアプローチ概念です。

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