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パナソニック コネクトのパーパスブランディングから学ぶ、パーパスを具現化し共感を生む「物語(ナラティブ)」の力

パナソニック コネクトのパーパスブランディングから学ぶ、パーパスを具現化し共感を生む「物語(ナラティブ)」の力

2021年4月に、パナソニックグループの持株社制への移行に伴い、独立会社となったパナソニック コネクト株式会社。新会社設立にあたり、社員・お客様・社会とともに「共創」し「共感」できるパーパスを策定し、パーパスを社内外に浸透させるために、パーパスCMの作成やコアバリューの策定、オフィスブランディング等、さまざまな取り組みを進めています。

今回はパナソニック コネクト株式会社 執行役員 常務・CMOの山口有希子氏とPRストラテジスト本田哲也がゲストとして登壇したAWAsia(Asia Advertising Week)の『ナラティブ:パーパスを具現化する「物語」の力』トークセッションから、パナソニック コネクトがパーパス策定において大切にしたナラティブなアプローチをご紹介します。

社名とパーパスに込めた「共創」の思い

山口:まずは、4月からパナソニックグループの分社化に伴って独立会社としてスタートした会社「パナソニック コネクト」の活動やパーパスについて紹介します。パナソニックと言えば家電のイメージが強いかもしれませんが、パナソニック コネクトはBtoB企業。テクノロジーやエッジデバイス、ソフトウエア、コンサルティング、サービスなどを、サプライチェーンや公共サービス、生活インフラ、エンターテインメントといったお客様の現場に価値を提供し、共創しながら現場を作っていく。最終的には、その先の生活者のウェルビーイングや、地球や社会のサステナビリティにつなげていくことが役目です。私たちは「現場」にこだわっていますので、パーパスを「現場から社会を動かし未来へつなぐ」と策定しました。私たちはなぜここに存在するのかを示す「存在意義」という言葉がありますが、存在意義を果たすために、お客さまや社会と一緒に「共創」しながらサービスを提供していく。この考えのもと、あえて「コネクト」という言葉を使っています。
本田:社名にも使われていて、まさにパーパスそのものの言葉ですよね。

山口:そうなんです。社内でも「コネクト」だとWhat(何をするか)が何も分からないという議論もありました。しかし我々の存在意義として、お客様と一緒に、社会を共創していくという考えのもと、Why(なぜやるのか)を伝える「コネクト」を社名に採用しました。

ロゴのCOにも意味があります。コネクト以外にも、コラボレーション、コミュニケーション、コ・クリエイションといった意味を込めました。

次に、行動規範としてコアバリューを5つ設定しました。パナソニックには松下幸之助から伝わるさまざまなメッセージがあります。それらを現代風に、かつグローバルにも伝わるようにアレンジしました。

さらに4月からは、ローンチブランディングキャンペーンの一環としてWhyを伝えるパーパスCMとWhatを伝えるお客様事例CMを作成しました。今回はパーパスCMをご紹介します。

パナソニック コネクト パーパスCM「かなえよう。」篇
本田:素敵ですよね。はじめて見たとき、一般のBtoB企業のCMとはちょっと違うなと感じました。

山口:そうですね。このCMのストーリーは、欲しいと思っていた靴下が買えなかった女の子を、コネクトの力で解決するもの。子どもの夢をかなえることは、まさに現場から社会を動かし、未来へつなぐことだと思います。その思いを、楽しい雰囲気で感覚的に伝えられたらと考えました。このCMは、Why、まさにパーパスをテーマにしている点で一線を画していると思います。
オフィスブランディングも行いました。「CO」というデザインを大切にメッセージの発信をしています。

このように意識改革のきっかけをいろいろな場面でつくることが大事だと思います。社長メッセージ、マネージャーメッセージだけでなく、オフィスやノベルティなど、すべてパーパスやコアバリューを意識するようなしかけづくりを進めている最中です。

ナラティブなアプローチで進めた、パーパスブランディング

本田:山口さんはさらっとおっしゃいましたが、これはかなり大変なプロジェクトだと想像します。もはやマーケティングや人事だけの範疇ではないですよね?樋口社長もかなりコミットされたのではないでしょうか?
山口:ボードメンバート含めた全員プロジェクトですね。おっしゃる通り、一番コミットしているのは社長です。

本田:そうでなければ、ここまでできませんよね。

山口:パーパスはまさに会社そのものですから。私はプロジェクトマネージャーとして機能しましたが、リーダーは社長です。

またプロジェクトの進め方は非常にナラティブでしたね。CMでは、東京ドーム様やヤマト運輸様のトップにもご協力いただきました。これは日頃から企業同士の関係性ができているからできたことです。

本田:企業対企業の本質的な共創を実現されたのですね。これは下地がなければできませんね。

山口:そうなんです。人間同士や企業同士がつながり、つながることによるポジティブな渦が生まれて、はじめてリアルなナラティブが形成されていくのだと思います。

パーパス策定は、すでにあるものを「掘り起こす」

本田:パーパスは、ともすると抽象度が高くなりすぎて、どの企業でも当てはまる概念になりがちだと思います。策定におけるプロセスで、苦労した点はありますか?

山口:私たちは「現場」という言葉を採用しました。「現場」は、すでに社員たち自身も大事にしている言葉だったからです。私は、パーパス策定のプロセスは「カービング」だと思います。本来そこにあるみんなの思いを掘り起こしたにすぎません。

本田:引き出すというより、掘り起こすだったんですね。分かります。
山口:そう。本来すでにそこにあるものを掘り起こし、分かりやすく覚えやすく、かつ響く言葉にしていくプロセスでした。

本田:非常に大事ですね。よくパーパスとミッション・ビジョンとの違いについて聞かれます。ミッション・ビジョンはみんなが目指すものとして上を向く感じですけれど、パーパスは掘っていく。それぞれの策定のプロセスは違いますよね。

ただ、一点気になることがあります。「現場」は日本らしい概念だと思います。パナソニックコネクトはグローバルに展開されていますが、この「現場」の意味について、グローバルにどのように伝えているのでしょうか。

山口:まさに苦労した点がここです。パーパスを作るときもグローバルチームと何度も議論を重ねました。パーパスはみんなに腹落ちして欲しいからです。ただ、「現場」には直接の訳語がありません。コンセプトや内容には共感してもらえましたが、言葉として表現するのはすごく難しかったです。

その結果、グローバルのパーパスは、「現場」は使わずに、“Change Work, Advance Society, Connect to Tomorrow” という言い方にしました。

本田:コンテクストをきちんと作っているから意味は伝わるけれど、ワンワードでは難しかったんですね。この際、「現場」をローマ字でそのまま浸透させる案はなかったのですか?

山口:それも考えましたが、やっぱり時間とパワーがかかります。自分の言葉として腹落ちして欲しいので、各地域の言葉や思いをリスペクトする作り方をしました。

本田:パーパスを作るとき、キャッチコピーやタグラインなど美しい言葉として外に打ち出すことばかり目が行ってしまうケースも少なくありません。山口さんのように、掘り起こし、腹落ちしてもらうプロセスが大事だと感じます。

山口:ふわふわなパーパスにはしたくなかったんですよ。そもそも、みんなが何かしらの思いをもって働いています。その思いをみんなが納得するような形でパーパスにすることで、新しい会社としての求心力になると思いました。

外部パートナーにも自分事化してもらう

本田:パーパスの策定やCM制作においては、社外パートナーと一緒に取り組まれたとのことですが、連携における苦労はありましたか?

山口:今回は海外のエージェンシー、日本のエージェンシー含めて、チームコネクトを作り、密でオープンなディスカッションをしました。次第にエージェンシーの方が「これはコネクトらしい」「コネクトらしくない」と自分事化して語るようになったほどでした。ワンチームとして取り組めたのは本当によかったと思います。

ただ、会社側と制作側で目線がどうしても異なることもありました。私たちとしては、Why、What、Howと順番に考えていきたいのですが、制作サイドは、Howにフォーカスする傾向があると感じました。
本田:私も長年PRの仕事をしているのでよく分かります。制作サイドとしては、Howで価値を出すことに目がいってしまうんですよね。

山口:だから視点をWhyに上げることを、エージェンシーのメンバーとともに実践していきましたね。パーパスをベースに議論していくことで、クリエイティブもどんどんよくなったと感じますね。

日頃の活動すべてがナラティブであるべき

本田:まずはパーパスという土台を大事にされたのですね。ナラティブに関連させてお話ししますが、パナソニックコネクトさんが語りたい物語を映像にしましょうではなく、なにかをみんなでつくろうという共創の発想を感じます。これが求心力を生むのだと思いますね。

山口:そうですね。ナラティブについていえば、パーパスをつくるプロセスだけでなく、日頃のいろいろな活動すべてがナラティブになり得ると思うんです。プロジェクトでみんなの意見を吸い上げて良いモノを作るのも、すべてナラティブだと思うんですよね。
本田:本当にそうですね。みんなでパーパスを共有して活動するのは、それ自体が物語性を持つことだと思いますし、そうならないのなら「そもそも存在意義はなにか」という本質的な問いに戻ってくると思います。概念的で難しいところもありますが、普段の仕事と常に結びつけながら考えていくことはPRの仕事でも非常に大事だと思いますね。

山口:コミュニケーション担当者の立場からいえば、コミュニケーションは最終的に成長の力であり、社会をよりよくするための力だと思います。それをドライブするために、我々コミュニケーション担当者が常にパーパスを意識して、いろいろな活動をしていくことが大事だと思います。

本田:そう考えると、責任重大ですね。でもそれだけやりがいのある仕事です。

山口:そうなんですよ。コミュニケーションの究極的な形は、マインドセットの変化と行動変革です。それを社員はもちろん、ステークホルダー全体に働きかけできることは大きな喜びですね。

本田:その通りですね。残念ながらお時間が来てしまいました。本日は本当に貴重なお話をありがとうございました。

「Narrative Genes ~ナラティブの遺伝子たち~」

企業と社会の関係性が見直される時代に注目が集まる「ナラティブ」を
PRストラテジスト・本田哲也を中心に、企業経営、ブランディングの先駆者と共に考えるウェブサイト。

「ナラティブ」とは、企業と消費者(生活者、ユーザー)との「共体験」の物語のこと。
企業経営において重要な「共創」に着目した、新たなアプローチ概念です。

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