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「機能」はAIに代替される。なぜ今、企業に『ナラティブ』が不可欠なのか?【小澤健祐×本田哲也】前編

「機能」はAIに代替される。なぜ今、企業に『ナラティブ』が不可欠なのか?【小澤健祐×本田哲也】前編

AIエージェント元年と呼ばれる2025年は、ChatGPTをはじめとする生成AI(以下AI)が社会に深く浸透し、企業においても本格的な導入と活用が進みました。我々の生活に多大な恩恵をもたらす一方、AI失業や仕事の単価の低下などの問題もはらみ、2026年はいよいよそれらが顕在化すると予想されます。

「人間とAIが共存する社会をつくる」というビジョンを掲げ、日々AIの可能性と実践的活用法を発信する小澤健祐氏と本田哲也が、AIが当たり前となった時代におけるナラティブのあり方を考えます。

勝負を分けるのは、AIの性能差ではなく「エコシステムの構築」

本田:昨年、一昨年とAIは大きく進化を遂げましたが、小澤さんから見て2026年はAIがどのように進化すると予想しますか?

小澤:今、メジャーなAIはOpenAIのChatGPT、GoogleのGemini、AnthropicのClaude、MicrosoftのCopilotなどがありますが、いずれもモデルとしての性能差は軽微なものになりつつあります。今年はAI自体の性能よりも、どんなツールやデータと連携できるのか、いわゆる「エコシステムの戦い」になると予想します。GeminiならGoogleドライブやGmailとの連携、CopilotならTeamsやOutlookとの連携ですね。エコシステムの構築という視点だと、ChatGPTが出遅れているのかなと思います。

今やAIを業務に導入するのは当たり前で、本格的にAIエージェントとして使い始めるようになるのが今年でしょう。業務の効率化だけに留まる企業と、AIの活用により売上を2倍、3倍と伸ばせるようになる企業の差が明確に出てくると予想します。

本田:今後、どのような企業が次のレベルに向けてAIを使いこなせるようになるのでしょうか?

小澤:それはもう「組織力」につきますね。去年までのAI活用は究極の属人化でした。業務知識や経験がある人はプロンプトを構築して、どんどん仕事ができる。本田さんはPRの知見があるので、PR関連の質問に対するAIの回答は正しく評価できますよね。当たり前ですが、業務知識のある人はAIをうまく使いこなせるんです。でも、それ以外の人はどうすればいいのか。2026年はいかに「型化」するか。それが勝てる企業と勝てない企業の差になると思います。

プロンプトを毎回書いていたら効率が悪いですよね。型化するということは、新入社員でもキーを押すだけで営業メールもプレスリリースも書けるようになるわけです。今年は「脱プロンプト」に成功した会社が伸びると思います。いかにして、社内の暗黙知という資産をAIの資産にするか。誰でもAIを活用できる状態にするためには、ワークフロー化していく必要があります。これが今年の一つのキーワードになるでしょう。

本田:属人化から組織化というのがポイントですね。業務が効率化される一方で、差別化が難しくなるようにも聞こえます。

小澤:まさにそこが重要です。AIによって機能的な価値はコモディティ化(均質化)します。 僕はよく「玉ねぎ3つのカレー」の話をするんですが、僕は玉ねぎが大好きで、カレーを作る時は玉ねぎを3つ刻んで入れるんです。でも、AIが普及すれば、「玉ねぎを3つ使った美味しいカレーのレシピ(機能)」は誰でも瞬時に手に入ります。 つまり、単に「美味しいカレーを作る機能」だけでは、もはや誰にも勝てない時代が来るのです。

AIに「ナラティブ」は作れるのか?:主体の必要性とAIにナラティブが成立する可能性

本田: 機能での差別化が難しくなる中で、重要になるのが「ナラティブ(物語)」です。ただ、AIは過去のデータを編集することは得意でも、主体的に新しい文脈を生み出すのは苦手なようにも見えます。果たしてAIに独自のナラティブは作れるのでしょうか。

小澤:結論から言うと、現状のAIには「主体性を伴ったナラティブ」を作ることはできません。
ナラティブには必ず「主体」があり、その主体の裏側には「経験」や「欲望」があります。

先ほどの「玉ねぎカレー」の話に戻ると、僕の作る玉ねぎカレーを差別化するために何をすべきなのか。そこで必要なのが独自のストーリーです。それは、おばあちゃんとの思い出かもしれないし、彼女とのエピソードかもしれない。そういった特別なストーリーがあることで、同じ味だとしても「小澤の作る玉ねぎカレーが美味しい」と感じるわけです。

本田: なるほど。機能が同じでも、ナラティブは「主体」と「経験」があるからこそ生まれる文脈であり、そこはAIにはまだ模倣できない領域ということですね。では、将来的に見ても、AIがナラティブを持つ日は来ないのでしょうか?

小澤: 将来的には可能性があります。もし、「ドラえもん」のように自律的に動くロボットやAIエージェントが登場し、「ネズミに耳をかじられて青くなった」といった固有の経験を持つようになれば、そこにはAI独自のナラティブが生まれるかもしれません。 AIに「主体」と、その主体の裏にある「経験」が揃った時に初めて、ナラティブは宿るのだと思います。

本田:僕はナラティブを生み出すということは、エピソードの編集だと思っているんです。固有の経験やエピソードが人や企業の物語を作るわけで、それは情報の編集とも言えます。現状はそういったエピソードをAIにインプットしなければナラティブは作れませんが、いずれは主体性を持ったAIが独自のナラティブを生み出すかもしれないと。

小澤:そうですね。AIが今より汎用的に、自律的に動けるようになれば、そういった時代が来るでしょう。

一神教的AIと、多神教的企業文化:汎用AIと企業のナラティブ

本田: 企業におけるナラティブという視点では、AIとの付き合い方はどうなるでしょうか。

小澤: 今の汎用的なAIは、いわば「一神教」的であり、中立的でリスクを避ける傾向があります。

例えば、日産自動車には「やっちゃえNISSAN」という挑戦的な企業文化(ナラティブ)がありますよね。でも、日産の社員が汎用AIに「新しい企画をやりたい」と相談したら、AIは「リスクがあるので一度検討しましょう」と返してくる可能性があります。

本田: それだと、「やっちゃえ」という企業のナラティブがなくなってしまいますね。
小澤: そうなんです。汎用AIを使うだけでは、企業ごとの尖った文化や「らしさ」が削ぎ落とされ、どこの企業も同じような優等生的な回答しかしなくなってしまいます。それでは企業としての魅力も差別化も消滅し、最終的には大きな企業に吸収されてしまうでしょう。

これからは、汎用AIを使うだけでなく、「自社のナラティブを理解したAI」を構築する必要があります。 「うちはこういうビジョンで、こういう歴史があるから、ここではリスクを取るんだ」という独自の哲学(多神教的な価値観)をAIに学習させる。そうして初めて、AIは企業のナラティブを増幅させる強力な武器になります。

2026年以降、AIを使うこと自体はスタートラインに過ぎません。「自分たち(自社)は何者なのか」というナラティブがないままAIを使っても、何も生まれない時代がやってくるのです。

ナラティブとは事業計画を言語化したものですからね。どのように社会が変わり、それにより人々の価値がどのように変わっていくのかを考えながらナラティブを描いていく。それは、すべての会社が事業戦略を持たなければいけないのと同義です。これができないと、10年後には倒産する企業が急増するでしょうね。

本田:企業の倒産件数はここ数年、増加し続けていますが、今後はそれなりの規模の企業もリスクがあるかもしれない。AIの機能がコモディティ化する時代には、すべての企業がナラティブを持つべきですね。
▼後編はこちらから

「Narrative Genes ~ナラティブの遺伝子たち~」

企業と社会の関係性が見直される時代に注目が集まる「ナラティブ」を
PRストラテジスト・本田哲也を中心に、企業経営、ブランディングの先駆者と共に考えるウェブサイト。

「ナラティブ」とは、企業と消費者(生活者、ユーザー)との「共体験」の物語のこと。
企業経営において重要な「共創」に着目した、新たなアプローチ概念です。

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