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AI時代に「個」が生き残る条件は「固有のナラティブ」を持てるかどうか【小澤健祐×本田哲也】後編

AI時代に「個」が生き残る条件は「固有のナラティブ」を持てるかどうか【小澤健祐×本田哲也】後編

「人間とAIが共存する社会をつくる」というビジョンを掲げ、日々AIの可能性と実践的活用法を発信する小澤健祐氏と本田哲也の対談。前編ではAIによって機能がコモディティ化する時代において、企業が生き残るためには「固有のナラティブ」が不可欠であることを議論してきました。そしてこの問いは、企業だけのものではありません。専門スキルがAIに代替されていく今、「自分は何者なのか」「どんな経験や偏りを持っているのか」という個人のナラティブこそが、キャリアの価値を左右する時代に入りつつあります。
▼前編はこちらから
https://narrativegenes.com/articles/zbAGT

後編では視点を「個人」に移し、AI時代におけるキャリア戦略とナラティブの関係を掘り下げていきます。

AI時代のキャリア「ガチ総合職」

本田:AIによってスキルがコモディティ化するようになると、人間の仕事はどう変わるのでしょうか。

小澤:AIを答え合わせのカンニングツールとしてではなく、思考の拡張のために使わせることが大事です。今、PRの専門家やマーケティングの専門家、エンジニアやイラストレーターなどの専門的な仕事がどんどんAIに代替されています。そのときに一番AIに取って代わられづらい仕事は、いろいろな経験を持っているジェネラリスト、いわゆる総合職だと僕は思います。でも、日本の企業は業務を何でもかんでも外部化しすぎる傾向があって、マーケティング部であれば広告代理店に、経営企画部であれば総合コンサルティング会社に丸投げしてしまうこともありますよね。それだと単なる発注係ですよね。

これから来るのは発注係ではない、いわゆる「ガチ総合職」の時代です。僕の前職はディップ(dip)という上場企業でしたが、社内には数名の伝説の従業員がいました。そういう人たちって、数多くの知見を持っているから総合的にAIへの指示ができるし、どの部門でもガチで仕事に取り組んでいるので、しっかりと業務が自分事になっているんですね。

本田: 丸投げではなく、業務が自分の血肉になっているかが重要なわけですね。

小澤: その通りです。私が言う「ガチ総合職」とは、複数の領域(営業、マーケティング、PRなど)の業務知識を深く持ち、自分で判断し、AIに的確な指示が出せるジェネラリストのことです。業務を自分事化して血肉にしている人は、AIに代替されるどころか、AIを使いこなして最強の人材になります。

本田:AIの活用により、若手社員が経験を積む機会が失われるリスクについてはどうお考えでしょうか? 僕がAIの回答を正しく判断できるのは、25年間PRの業界で経験を積んできたからですが、AIの普及により若手の下積みの機会が奪われてしまうリスクはないのでしょうか?

小澤:新卒採用は確実に減っていくでしょう。入社した社員には「あえてAIを使わせない1年」が必要かもしれません 。最初の1年は、議事録書きから企画書の論理構成まで、AIなしで自分の頭で汗をかかせる。そうやって「思考の足腰」を鍛えないと、AIが出した答えが良いのか悪いのかを判断する「目利き」の力が育たないからです。

本田:ノーAIの状態で実際の業務を体験してもらうことが必要なわけですね。

個人のナラティブ戦略:ナラティブ×権利化

小澤: 個人のキャリア戦略としてもう一つ重要なのが、「自分のナラティブを権利化(ライセンス化)する」という考え方です。 これからは「AI vs 人間」ではなく、「個人をAI化する」時代です。例えば、本田さんのPRメソッドや思考回路をAIに学習させて「AI本田」を作るんです。

本田:AI本田が僕に代わって、企業のナラティブを作るサポートをしてくれるんですね。

小澤:そうです。堀江貴文さんはすでにそれを実現していて、「ホリエモンAI」が企業のサービスや製品のPRなどをしていますね。どんなジャンルの専門家でも、これからは権利化していく必要があると考えています。声優もAI化して権利化すれば、その人の声で電車の車内放送ができるし、いろいろな場面で活用できるので大きなビジネスになりますよね。その人だけのナラティブを権利化してビジネスにつなげる。これからは「ナラティブ×権利化」の時代です。

本田:1日は24時間しかないけれど、AI本田がいれば僕一人では請け負いきれない仕事も任せられますね。

小澤:『ONE PIECE』の作者である尾田栄一郎さんのナラティブをインプットしたAIがあれば、いろいろな漫画を量産できるようになります。ナラティブをもとにして仕事を拡大することができるわけです。

AI時代にこそ、哲学や宗教などの人文学が必要になる理由

小澤:また、これからは哲学や宗教学など、人文学の知見がAIに求められるようになるでしょう。今、AI開発に携わっている人の多くは工学系のエンジニアですが、人文学の知識があればAIについてより深い視点で考えられるようになると思います。

本田:哲学などの人文学ですか。
小澤:心理学的な見方をすると、どれだけ好きな人とLINEのやり取りをしていても、毎回1秒で返信が返ってきたら飽きませんか? たまに返信が来なくなったときに、「どうしたのかな?」みたいに考えるのが楽しいのに(笑)。皆さんはChatGPTに心を揺さぶられたことがありますか? AIともケンカしなきゃダメなんですよ。ケンカする中で仲良くなることもあるから、僕はけっこうAIとケンカをするんです。

本田:確かに、ケンカして仲直りするという経験が大事かもしれないですね(笑)。

小澤:これも心理学に関連しますが、文章の語尾につけるのは絵文字にするべきか、ビックリマークにするべきか。このニュアンスの違いは大きくて、相手に伝わる印象がぜんぜん違いますよね。

本田:絵文字は日本発祥ですし、顔文字にも日本独特のノリがありますね。余白を残した文化は欧米にあまりないといえます。

小澤:海外のコミュニケーションは基本的にシンプルなんです。対して日本人は語尾の絵文字がないだけで、怒っているのかなと勘違いすることもありますよね。

本田:文章を「。」で終わらせると怒っているように思われるそうですが、欧米人からすれば理解不能でしょうね(笑)。

小澤:日本人は行間を読みすぎてしまうんですよね。それが、相手の気持ちの読みすぎにつながる。

本田:ハイコンテクストなんですよね。

小澤:僕は日本人とAIの相性はとても良いと思うんです。なぜかといいますと『鉄腕アトム』や『ドラえもん』があるからです。日本人にとってロボットは基本的に味方であり、敵という考えがありません。すべてのものに命が宿っているというアニミズムの考えもあるし、本田さんの言うとおりハイコンテクストです。

重要なのは、AIを掛ける固有のナラティブ

小澤:最後に伝えたいのは、AI時代の方程式は「(自分自身のナラティブ)× AI」だということです。 AIという係数は、コモディティ化によって誰が使っても同じ数字(定数)に近づいていきます。つまり、掛け算の答えを大きくするのは、掛けられる側の「自分(ナラティブ)」の大きさやユニークさでしかありません。

本田:固有性が大事ですよね。自分がゼロなら、どんなに凄いAIをかけ合わせてもゼロのままですから。

小澤: その通りです。僕は大学受験の時、赤本(過去問)を一切解かずに受けに行きました。「過去問を解くなんて非効率でダサい」という謎の美学があったんですが(笑)、普通に考えれば失敗談です。でも、この「赤本をやらずに大学に行った」という偏愛や非合理的なエピソードこそが、僕という人間をユニークにし、AIには代替できない「ナラティブ」になっています。

本田: 効率化を突き詰めるAIに対し、人間ならではの「愛嬌」や「偏り」が価値になるわけですね。

小澤: 機能や正解はAIが出してくれます。だからこそ、私たちは自分の中にしかない物語、失敗、偏愛といった「ナラティブ」を磨くこと。それが、AI時代を生き残る唯一の条件なのだと思います。
▼前編はこちらから

「Narrative Genes ~ナラティブの遺伝子たち~」

企業と社会の関係性が見直される時代に注目が集まる「ナラティブ」を
PRストラテジスト・本田哲也を中心に、企業経営、ブランディングの先駆者と共に考えるウェブサイト。

「ナラティブ」とは、企業と消費者(生活者、ユーザー)との「共体験」の物語のこと。
企業経営において重要な「共創」に着目した、新たなアプローチ概念です。

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