1. TOPNarrative GENEs(ナラティブ ジーンズ)
  2. ユニコーンからゼブラ企業へ。「Peerby」から学ぶ、ステークホルダーと紡ぐナラティブの重要性。
ユニコーンからゼブラ企業へ。「Peerby」から学ぶ、ステークホルダーと紡ぐナラティブの重要性。

ユニコーンからゼブラ企業へ。「Peerby」から学ぶ、ステークホルダーと紡ぐナラティブの重要性。

2017年以降「ゼブラ企業」という言葉が提唱され、国内外で認知を広げています。もともと、この考え方が生まれるきっかけとなったのは、現在の資本主義のあり方を象徴するような「ユニコーン企業」の台頭です。短期的な急成長や株主の利益、企業規模が重視されるユニコーンに対して、持続可能な繁栄や他社との共存を重視するゼブラ企業。そのなかには、ナラティブを重視し、各ステークホルダーと共創しながらビジネスを展開する形も生まれています。

今回はかつてユニコーンを志しながら、自社のナラティブに改めて立ち返り、ゼブラ企業としてステークホルダーと共創の形を築いている、オランダ発のスタートアップ企業「Peerby(ピアビー)」について紹介します。

本記事は株式会社ゼブラ アンド カンパニーの以下の記事を元に執筆しています。

ユニコーン企業への疑念から生まれた「ゼブラ」という概念

ユニコーン企業とは、設立10年以内、時価総額10億ドル以上、非上場のスタートアップ企業を指します。創業から短期間で大きな成果を出せる企業が希少であることから、幻獣であるユニコーンに例えられ、主に投資家たちの熱視線を集めてきました。一方で、ベンチャーキャピタルなどから資金調達を繰り返し、急成長を遂げることで市場を独占し、投資家にも大きなリターンをもたらすという華やかな反面、近年はその利益追求への偏りからくる弊害を疑問視する動きも生まれています。
”Zebras”(ゼブラ企業)は、こうした利益追求の風潮に危機感を覚えた米国の4人の女性起業家が2017年に提唱した概念です。具体的には、事業運営において持続可能性と社会・環境・経済へのポジティブなインパクト創出に主眼を置き、またその組織運営においても、持続可能性と長期的な成長を重視することを特徴としています。「白(持続可能性)」と「黒(収益性)」という一見相反する目標を両立することがゼブラの語源です。

オランダ発スタートアップ「Peerby」が経験した方向転換

ゼブラ企業の概念を体現する事例として、オランダ・アムステルダム発のスタートアップ、Peerby(ピアビー)が挙げられます。Peerbyは各家庭が購入した日用品の全てが十分に活用されているわけではない事実に着目し、「ご近所さんとつながる」という合言葉を掲げて、「モノの貸し借りができるシェアリング・プラットフォーム」を運営しています。

日用品をご近所同士で共有するという事業アイデアは、2012年の創業後すぐに高く評価され、アメリカ元大統領のビル・クリントン氏が設立したクリントン財団が主催するサステナブルビジネスコンペティション「Postcode Lottery Green Challenge」に選出されました。また世界経済フォーラム主催のダボス会議でも世界のサーキュラーエコノミーに貢献した企業として紹介されています。

Peerbyは元々ユニコーン企業を志向しており、2014年にフランスのベンチャーキャピタルなどから170万ユーロ(約2億2300万円)を調達。2016年のクラウドファンディングでは1週間以内で200万ユーロ(約2億6600万円)を達成。それらの資金で、ロンドン、ベルリン、ニューヨーク、サンフランシスコへと事業を次々に拡大し、欧米の20都市以上で、急速に新規ユーザーを獲得する計画で動いていました。

Peerbyをローンチした際には、純粋にコミュニティのためのものとして構築されていたため、手数料は無料に設定されており、保険等もありませんでした。そのため利用者が増え、次第にコミュニティが形成されるようになりました。

ところが、投資家からの期待に答え、シリコンバレーのAirBnBやUberなどのテック企業のビジネスモデルを参考に、早期収益化に向けて製品の貸し借りが発生するたびに手数料を課金するモデルを導入したところ、思うようにスケールしなくなってしまいました。ユーザーが求めていたのは、「日用品を便利に貸し借りできること」だけではなかったのです。Peerbyのユニコーン企業を目指す試みは失敗に終わりました。

理念実現のためにゼブラ企業に

この経験から、Peerbyは創業時から掲げている、「廃棄を減らす」「人びとが怖がらずに、お互いに助けを求めることができるローカルコミュニティをつくる」という企業理念とPeerbyの本質に改めて向き合うことになります。

https://www.peerby.com/en-nl

Peerbyによってモノを所有からシェアに移行することは、日用品の開発や廃棄にかかるエネルギーや資源の削減に繋がることに加え、高品質・高単価の製品に手が届かなかった人たちが必要なときだけ借りられることで、地域の中につながりや信頼を生み出していたのです。

このような理念に立ち返った結果、Peerbyは「コミュニティモデル(会員課金)」へと大きく舵を切ります。元々手数料課金を導入した際には、日用品を無料で貸す人が増えてしまうと、コミュニティの継続が苦しくなるという矛盾が発生していました。

それに対し、地域の中につながりや信頼を生み出すことを価値の主眼においてからは、メンバーシップフィー(会員課金)にモデルを変更。多くの日用品を貸し出し、コミュニティに貢献する度合いが高い人への課金額は少なくなり、借りるだけの人には課金額が大きくなるという仕組みを採用しました。さらに、日用品の故障・盗難などがあった際に会員課金を原資とした、「コミュニティ・ファンド」から拠出するという制度も立ち上がりました。Peerbyという企業の一部を、コミュニティが共同所有しているような形をとったのです。

日用品メーカーとも競合ではなく、共創する

また、Peerbyのユニークな取り組みとして、日用品メーカーなどと競合でなく共創パートナーとして協働していることが挙げられます。具体的には、「シェアすること」を前提としたモノづくりのためのコンサルティング事業を展開しています。

例えば全ての人がモノを購入することを前提とした社会では、製造者は「価格を抑えること」に特化せざるを得なくなります。しかし、長く・複数の人がシェアして使うことを想定すると、所有するのとは異なる発想や知見が企業には必要になります。所有からシェアに移行する中でPeerbyは企業を、日用品のシェアという新しい生活様式を支えるエコシステムをともに構築するパートナーと捉えて巻き込むことで、廃棄を減らす未来の実現と、企業の収益拡大、双方に貢献しようとしているのです。

さらに、社会・環境へのインパクトを重視するインパクト投資家などに支えられ、Peerbyはゼブラ企業として長期的かつ持続可能な成長を目指しています。

このように、Peerbyは改めて創業の想いに立ち帰り、コミュニティ・日用品メーカー、そしてインパクト投資家などと、サーキュラーエコノミーを作るという共通の理念のもと共創し、エコシステムを構築しながらビジネスを展開しています。ステークホルダーそれぞれが理念に共感しながらナラティブを紡ぎ、成長している例と言えるでしょう。
執筆者プロフィール

西崎こずえ
オランダ在住サステナビリティ・サーキュラーエコノミースペシャリスト。オーストラリアで高校・大学卒業後、現地でマーケティング分野で勤務した後に帰国。東京を拠点にPR・CSRコンサルタントとして国内外のブランドを支援。2020年1月よりオランダ・アムステルダムに拠点を移しサーキュラーエコノミーに特化した取材・情報発信・ビジネスマッチメイキング・企業向け研修プログラムなどを手掛ける。
企画・編集者プロフィール

岡徳之
慶應義塾大学経済学部卒業後、PR会社勤務を経て独立。現在はシンガポール、オランダを拠点に事業運営を行う。NewsPicksや東洋経済オンライン、CNET Japan、ITmediaなど国内の有力ニュースサイトを中心に25媒体以上で編集・執筆を担当。専門領域はIT・ビジネス・マーケティング・クリエイティブ・人物インタビューなど多岐に渡る。大手ソフトウェア会社、住宅メーカー、人材会社などのオウンドメディアの運営にも携わる。

「Narrative Genes ~ナラティブの遺伝子たち~」

企業と社会の関係性が見直される時代に注目が集まる「ナラティブ」を
PRストラテジスト・本田哲也を中心に、企業経営、ブランディングの先駆者と共に考えるウェブサイト。

「ナラティブ」とは、企業と消費者(生活者、ユーザー)との「共体験」の物語のこと。
企業経営において重要な「共創」に着目した、新たなアプローチ概念です。

TOP