1. TOPNarrative GENEs(ナラティブ ジーンズ)
  2. 1998年以来の日本一へ。横浜DeNAベイスターズがファン、そして横浜の街とともに築いた再生のナラティブ
1998年以来の日本一へ。横浜DeNAベイスターズがファン、そして横浜の街とともに築いた再生のナラティブ

1998年以来の日本一へ。横浜DeNAベイスターズがファン、そして横浜の街とともに築いた再生のナラティブ

2024年11月3日、横浜DeNAベイスターズは、SMBC日本シリーズ2024で福岡ソフトバンクホークスをくだし、26年ぶり3度目の優勝に輝きました。セントラルリーグ3位から「下剋上」での日本シリーズ進出。さらに日本シリーズではソフトバンクホークスに2敗ののち、敵地で怒涛の3連勝を飾り、逆王手をかけて本拠地である横浜に戻り優勝。その勢いはファン、そして横浜の街を大いに沸かせました。

近年、プロスポーツ界ではファンとチームが共に価値を創造する「共創」の動きが活発化しています。SNSの活用やファン参加型のイベントなど、ファンとの直接的なコミュニケーションによって、より近い距離で物語を紡ぐようになっています。

なかでも横浜DeNAベイスターズの共創は、横浜スタジアムを同心円に、地域全体にも広がりをみせています。今回は球団、ファン、地域が一体となり、どん底からの日本一を実現した横浜DeNAベイスターズにおける共創のナラティブを紹介します。

26年間、苦難に喘ぎ続けた神奈川唯一のプロ野球チーム

横浜DeNAベイスターズのルーツは、1949年に山口県下関市で誕生した「まるは球団」にさかのぼります。本拠地を横浜スタジアム(以下、スタジアム)に構えたのは1978年。「横浜大洋ホエールズ」は神奈川県唯一のプロ野球チームとして活動してきました。1992年に球団名を「横浜ベイスターズ」に改称。1998年には日本シリーズで西武ライオンズを4勝2敗でくだし、1960年以来2度目のセントラルリーグ優勝を果たします。1999年には抜群の攻撃力を誇った「マシンガン打線」で、チーム打率日本記録を達成しました。

しかし、絶頂を誇ったチームも、2001年のメンバーの移籍をきっかけに弱体化が進みます。2002年以降の最下位は9回、2008年〜2012年には5年連続最下位と、不名誉を更新し続ける暗黒時代が続きました。黒星続きのチームからは多くのスター選手たちや監督がスタジアムを去っていきました。魅力を失ったチームからは多くのファンが離れ、JR関内駅から徒歩5分と、抜群のアクセスを誇るスタジアムながら、2011年当時の座席稼働率は50.4%。空席ばかりが目立つスタンドには閑古鳥が鳴いていました。

球界の非常識を積極的に導入、球団の再起を図ったDeNA

どん底の球団に光が差したのは2011年12月。「横浜ベイスターズ」は親会社だったTBSからインターネット事業を運営するDeNAに球団が譲渡され、球団名も「横浜DeNAベイスターズ」と改称。その後、新生ベイスターズは、DeNAの取り組みによって見違える様な変化を遂げることになるのです。

DeNAがまず取り組んだのは、球団の再定義です。「ただのスポーツチーム」ではなく、「地域密着型スポーツエンターテインメント」としてとらえ、球界の常識を覆す取り組みが行われました。積極的なデータマーケティング戦略を打ち出し、そもそもなかった顧客データの取得と「来場者データの分析」を開始します。誰をターゲットにするのか、平日のナイターや休日の試合ごとに観客の属性を徹底的に分析。その結果、ターゲットは20代後半から30代の男性アクティブサラリーマンに設定されました。

さらにスポーツ界をはじめとしてアパレル、流通など他業界で人気のアイテムや体験を参考にしたサービスを取り入れました。そうした取り組みの1つ、球団オリジナル醸造のクラフトビール「ベイスターズ・エール、ベイスターズ・ラガー」は球場内でトップの売上を誇ります。2017年には日本大通りにも「CRAFT BEER DINING &9」をオープン。さらに2020年にはJR横浜駅のエキナカにも進出。球場外にも球団のコンテンツやビジュアルが出ていくことで、街にユニフォームを着た人の姿が増え、ファン同士が一体となって、観戦の余韻を共有できる場は球場外にも広がっていきました。

一方、試合開催日には試合前後やイニング間に各種イベントを開催。さらにクローザーである山崎康晃選手のセーブシュチュエーション登板時には、スタジアムを暗転してから、ブルーの光を使った演出を施しています。これに呼応してファンのパフォーマンスと応援は毎回最高潮に。「スポーツエンターテインメント」としての盛り上がりを生み出しています。また、球場外の人にも試合の興奮を体感できる接点が設けられました。スタジアムのある横浜公園には、大型のビジョンが設置され、夏にはビアガーデンを開催。野球をこれまで見ていなかった人も、球場や応援の雰囲気を感じ、触れ合える空間を作り上げ、地域一体となって「横浜DeNAベイスターズ」を盛り上げる施策が取られました。
 
こうした改革をリードしたのは、DeNAのマーケティング、人事、コンサルタントなど、球団運営とは無縁だった異分子の人たち。プロ野球を見るだけのスタジアムを、地域とスポーツエンターテインメントを共体験する場所に変えていきました。

「最高に強いチームを作る」中畑清が始め、バトンを繋いだチーム内の再建の物語

変革が起きたのは、球場や街の雰囲気だけではありません。暗黒時代と呼ばれ、試合に負けることに対する抵抗感が薄れていた、チーム内の意識も変わっていきました。

横浜DeNAベイスターズの初代監督に就任した中畑清監督は、2012年開幕直前のミーティングで「俺たちが変わっていけば、絶対にクライマックスシリーズ(リーグ上位3チームが進出するポストシーズン)に行ける」と語りかけ、チーム内の意識改革を促すルールを設けました。

グラウンドの選手たちが諦めた姿をファンに見せることを許さず、敗戦時も報道陣の前に立ち続けて現場の声をファンに届け続けた、中畑監督の強いチームへの物語は、当時現役で活躍していた選手たちへと受け継がれていきます。

中畑監督から監督の座を受け継いだラミレス監督就任後、球団はDeNA買収後初のクライマックスシリーズ進出を果たします。さらにその後を引き継いだ三浦監督によって、今回の日本シリーズ優勝へと繋がっていくのです。

こうした意識改革と強いチームへの確実な歩みはファンのチーム再建に対する期待を呼びおこし、関係性をより強固にしただけではなく、選手たちの球団に対する思いや愛着にも変化をもたらしました。近年は、生え抜きで活躍する選手たちが定着し、強いチームを継承していくという循環が生まれ始めています。

横浜をブルーに染め上げる。球界初の女性オーナーによる共感と体験価値の向上

チーム内外のさまざまな取り組みや改革とともに、強い横浜を取り戻すという物語をファンと共に築いたことにより、横浜DeNAベイスターズの観客動員数は、2012年の117万人から2019年には228万人と大幅に増加。コロナ禍で落ち込むも、2024年の観客動員数は球団史上最多の236万人を達成し、閑古鳥が鳴いていたスタジアムにはファンの応援で満たされるまでになりました。
横浜DeNAベイスターズのチームカラーは横浜の「海と港」をイメージした「横浜ブルー」です。スタジアムの座席や、ユニフォーム、ロゴなどに使用されてきましたが、2024年、この「横浜ブルー」が横浜市の中心を染めるまでになりました。

「SMBC日本シリーズ2024」優勝を記念して、11月30日に開催された「横浜DeNAベイスターズ日本一 優勝パレード2024」では、横浜を象徴する赤レンガパークや神奈川県庁本庁舎、横浜税関など市内45カ所が特別ライトアップされ、さらにブルーの花火が打ち上げられるなど、横浜の街全体がブルーに染まりました。

(出典:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001519.000013670.html)

横浜ベイスターズ取得後は、球団と球場の一体経営を実現し、年間25億円の赤字を5年で黒字化。自身が「1番のファンでいたい」と語る南場さんは、多忙な日々にもかかわらずレギュラーシーズンは、週1で現地観戦をするという熱の入れよう。ファンからは「ママ」と呼ばれるまでに慕われています。日本一になった瞬間、ブルーのスーツを着て球場内のファンに挨拶する様子は多くの人の心に残ったのではないでしょうか。

2025年2月、横浜DeNAベイスターズのキャンプ地である沖縄県宜野湾市の球場には、選手たちを見守る南場オーナーの姿がありました。かつて崩壊の危機に瀕した球団復権の裏側には、プロ野球をただ「観戦」「応援」するものから、ファンそして地域とともに三位一体となって、「スポーツエンターテインメント」として、共に作り上げていくという変革の歴史がありました。

南場オーナーは昨年の日本シリーズ優勝前に「来年はリーグ優勝」と三浦監督に伝えたといいます。暗黒時代からの改革期を経て、常勝チームへと歩みを進める横浜DeNAベイスターズ。球団がファン、そして地域と紡ぐナラティブは常に変化し続けながら、新たなシーズンへと続いていきます。

「Narrative Genes ~ナラティブの遺伝子たち~」

企業と社会の関係性が見直される時代に注目が集まる「ナラティブ」を
PRストラテジスト・本田哲也を中心に、企業経営、ブランディングの先駆者と共に考えるウェブサイト。

「ナラティブ」とは、企業と消費者(生活者、ユーザー)との「共体験」の物語のこと。
企業経営において重要な「共創」に着目した、新たなアプローチ概念です。

TOP