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「日本の成功体験」は通用しない? アジア市場を制する「ローカルインサイト」と「共創ナラティブ」の力

「日本の成功体験」は通用しない? アジア市場を制する「ローカルインサイト」と「共創ナラティブ」の力

日本企業の海外進出が加速する中、次なる主戦場として熱い視線が注がれているのが「アジア市場」です。しかし、日本での成功の方程式をそのまま持ち込み、現地で苦戦を強いられる企業も少なくありません。

2026年6月1日に開催された「Asia Insight 2026」では、本田哲也をはじめ、日本を代表するグローバル企業のキーパーソンたち、そして、アジア各国より来日したPR専門家が登壇しました。彼らの口から共通して語られたのは、現地の生活者に寄り添う「ローカルインサイト」の重要性と、現地社会と「共に作る物語(ナラティブ)」の力でした。

本記事では、イベントのキーノートやパネルディスカッションから見えてきた、日本企業がアジアで勝つための「共創のヒント」を紐解いていきます。

アジア市場の可能性と日本企業を待ち受ける「多様性」という壁

人口減少と市場の縮小が続く日本に対し、ASEAN(東南アジア諸国連合)を中心とするアジア市場は総人口約7億人を抱え、GDPが右肩上がりに成長を続ける、ポテンシャルの高い市場です。
加えて、日本企業にとって大きな追い風となるのが、アジア各国に根づく「日本への高い信頼度」です。
しかし、日本市場での成功体験が、アジアでは通用しないことも少なくありません。その最大の障壁となるのが、アジア特有の「多様性」です。

日本というのは、約1億2000万人の市場を抱えながらも、概ね同質性が高く、同じ価値観を共有している特殊な市場です。そのため、マスマーケティングの手法が通用してきました。しかし、アジアは宗教、言語、文化が各地域で異なります。各国、各マーケットの『ローカルインサイト(現地の社会や生活者が信じていること)』を把握することが重要です。(本田哲也)

「良いものを作れば売れる」という日本流のプロダクトアウトの発想ではなく、現地の常識や価値観を深く理解することから、アジアビジネスはスタートします。

「ローカルインサイト」がビジネスを変える

具体的に「ローカルインサイト」を捉えるとはどういうことなのでしょうか。イベントでは、各社の事例が次々と共有されました。

本田が分かりやすい事例として挙げたのが、大塚製薬の「ポカリスエット」のインドネシア進出です。日本では「運動後やお風呂上がり、お酒を飲んだ後」の水分補給として定着していますが、インドネシアでは全く別のアプローチで成功しました。

インドネシアは約3億人の人口を抱えますが、ほとんどがイスラム教徒です。暑い国なのであまり運動しませんし、お酒も飲みません。日本人のようにお風呂に浸かる習慣もない。そこで彼らが着目したのが『ラマダン(断食)明けの脱水症状』です。ラマダン明けに水分補給として良い、というアプローチに切り替えたことで大成功を収めました。(本田哲也)
また、味の素の代表執行役社長である中村茂雄氏は、同社のDNAとも言える「三現主義(現地・現金・現物)」を紹介しました。世界各国の食文化に合わせた味づくりを行うため、社員が自ら現地の台所に入り込み、何が「美味しい」とされているのかを徹底的に研究しているといいます。

日本、タイ、インドネシア、ベトナム、どの国の人も『旨味』を美味しいと感じます。しかし、旨味は共通でも、美味しさは各国でバラバラなのです。相手の美味しさを見つけ、それを再現する調味料を開発する。これが、当社グループがグローバル展開をする際に大切にしてきた徹底的なローカライズです。(味の素株式会社 取締役 代表執行役社長 最高経営責任者・中村茂雄氏)

インサイトの発見は、食品に限った話ではありません。ダイキン工業で広報・宣伝を担う片山義丈氏は、インド市場特有の「停電」という社会課題に着目した事例を語りました。

インドはものすごく停電が多いんです。停電してエアコンが再起動する時、かなりのダメージを受けて壊れやすくなります。そこで、現地のトップがインドの事情に合わせ、『停電の後でも強い(壊れない)』ということを訴求したことで、非常に伸びました。(ダイキン工業株式会社 広告宣伝グループ長・片山義丈氏)

日本であれば「停電しない」ことが前提ですが、現地では「停電後も壊れないこと」が強烈なベネフィット(価値)となります。現地の社会課題に寄り添った製品開発が、大きな差別化を生んだ好例です。

一方的な発信から「共に作る物語(ナラティブ)」へ

各国のインサイトを捉え、ローカライズした製品やサービスを届ける上で、欠かせないのが「コミュニケーション」のあり方です。ここでも、日本企業は大きな転換を迫られています。
SNSなどでの消費者とのコミュニケーションは、消費者に一番近い現地の人間がやるべきことです。弊社も数年前までは本社で決済をしていましたが、スピード感も出ません。本社がやるべきことは『何のためにやるのか』という目的の部分の議論であり、実行部分は現地のスタッフに任せるようにしています。(株式会社ロッテ グローバル本部 グローバルマーケティング部 部長・野津健次郎氏)

現地の文脈を最も理解しているローカルスタッフに適切に権限を委譲し、彼ら主導でプロモーションを展開すること。それが、現地の生活者の心を動かす鍵となります。本田も、これからのPRの本質は「一方的な発信(ストーリーテリング)」ではなく、現地社会と「共に作る物語(ナラティブ)」であると強調します。

大事なのは、一方的なストーリーテリングではないということです。日本の皆さんの物語というよりも、ローカルの社会とか、ローカルの生活者と一緒に作る物語になっていくべきなのです。(本田哲也)

アジアのPR専門家から見た日本企業の課題と可能性

パネルセッション「Insights from Asia:アジアから見る日本企業の可能性」では視点を変え、アジア各国の最前線で活躍するPR専門家たちが登壇しました。アジア地域にネットワークを持つ「PR Collective Asia」のメンバーである、シンガポールのイヴォン・コー氏、タイのソフィス・カセムサハシン氏、フィリピンのマリン・モリーナ氏らが、現地目線で日本企業への期待やコミュニケーションの課題について議論を交わしました。

日本企業は、高い品質と技術によって揺るぎない信頼を得ている。にもかかわらず、『差別化』や『感情的なつながり』の構築には苦戦している——。タイのカセムサハシン氏は、この一見矛盾した状況を「信頼のパラドックス」と表現します。そして、その背景にあるのが「意思決定のスピード」だと指摘しました。

日本企業は素晴らしい技術への信頼を勝ち得ていますが、意思決定のスピードが課題です。日本の本社が求める『完璧な状態』を待っている間に、変化の激しいASEAN市場では致命的な遅れをとってしまう危険性があります。(ソフィス・カセムサハシン氏)

日本企業が直面しているのは、「静かに優秀」であるがゆえの存在感の薄さです。技術力があり顧客に誠実であっても、情報発信が不足しているため、積極的にアピールを行う他国企業に埋もれてしまっているという指摘です。

現代のSNSを中心とした社会では、単に製品が優れているというだけでは生活者に気づいてもらえません。現地のリアルな声を拾い上げ、共感を呼ぶメッセージをスピーディーかつ継続的に発信していく姿勢が不可欠です。(イヴォン・コー氏)

フィリピンの人々と関係を築くには、圧倒的な会話量が必要です。時間をかけて完璧な事実確認を行うよりも、現地の人々と同じ目線で、直感的にコミュニケーションの輪へ参加していくスタンスが求められています。(マリン・モリーナ氏)

この課題に対して、専門家たちが共通して挙げたのは、本社主導から現地との「コ・クリエーション(価値の共創)」への転換の重要性でした。現地の文化や文脈に合わせ、インフルエンサーやコミュニティと共にブランドを育てていくことが求められています。

まとめ:日本の「アセット」に自信を持ち、オールジャパンで挑む

多様な文化とインサイトが交錯するアジア市場。日本企業がそこで勝ち抜くためには、これまでの成功体験をアンラーニングし、現地に深く入り込む覚悟が必要です。しかし、それは決して悲観的な道のりではありません。

日本はネガティブな状況や閉塞感もありますけれども、アジアにおける信頼と人気があります。我々はそれを少し、過小評価しているかもしれません。日本という国、日本企業、日本のブランドや商品にはまだまだ強いアセットがあります。これに自信を持って、オールジャパンでアジアビジネスを成功させていきましょう。(本田哲也)

現地のインサイトに耳を傾け、社会課題に寄り添い、共にナラティブを紡いでいく。その真摯な姿勢こそが、これからのアジア市場における日本企業の最強の武器になるはずです。

「Narrative Genes ~ナラティブの遺伝子たち~」

企業と社会の関係性が見直される時代に注目が集まる「ナラティブ」を
PRストラテジスト・本田哲也を中心に、企業経営、ブランディングの先駆者と共に考えるウェブサイト。

「ナラティブ」とは、企業と消費者(生活者、ユーザー)との「共体験」の物語のこと。
企業経営において重要な「共創」に着目した、新たなアプローチ概念です。

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