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Makuake式「応援」されるプロジェクトのつくりかた。愛されるプロジェクトに共通する「余白」とは何か

Makuake式「応援」されるプロジェクトのつくりかた。愛されるプロジェクトに共通する「余白」とは何か

日本でもすっかり定着しつつあるクラウドファンディング。この仕組みを起点として話題となった商品・サービスは今や数多くあります。しかし、すぐに手に取ったり、持ち帰れない商品やサービスに対し、人がお金を払い「応援」したい思うのはなぜなのでしょうか。ここには、企業のPRやブランディングを考える上でも、大切なヒントが隠れていそうです。そこでお話を伺ったのが、応援購入サービス「Makuake」を運営する株式会社マクアケ取締役の坊垣佳奈さん。新著「Makuake式『売れる』の新法則」( https://books.makuake.com/makuakeshiki/ )を出版したばかりの坊垣さんとともに、「応援」されるプロジェクトの秘訣を探りました。

「場」を提供するだけではなく、ともにナラティブを紡いでいく

本田:Makuakeではこれまでにさまざまなプロジェクトがクラウドファンディングに挑戦し、成功を遂げています。そこには何か「成功の方程式」があるのでしょうか?

坊垣:まず大切なのはプロジェクト自体のユニークさです。ものづくり系のプロジェクトにおいては、プロダクトの魅力ですね。けれど、それだけでは不十分。いかにその魅力を伝え、集客するかが重要になります。私たちがお手伝いできるのも、このプロセスです。プロジェクトの背景にあるストーリーやこだわりを引き出し、PRの手法も駆使しながら、しっかりと購入に結びつくようなプロジェクトページづくりを支援しています。

だから実は私たちは、ただ単にプラットフォームを提供するだけではなく、プロジェクトの上流工程からご一緒させていただいているんです。
本田:ナラティブの視点から言っても、ストーリーや背景といったコンテキストを「引き出す」プロセスは非常に重要だと思うのですが、それはどなたが担っているのでしょうか?

坊垣:コンサルと営業を兼ねた「キュレーター」という部門が、その役割を担っています。ヒアリングは基本的に対面ですね。地方にもなるべく支社を置いていて、今、関西支社、九州や名古屋拠点があります。

コロナ禍以降は、「リアル拠点って必要なのか?」という議論もあると思うのですが、私たちはやっぱりできるだけ地域に入り込んで、地場の産業の歴史や、そこで働く人の空気感をしっかりと理解していきたいんです。そうすると、その企業の強みも分かるし、プロジェクトを立ち上げる意義もクリアになりますからね。

地方ではMakuake自体の浸透度も、都市部に比べると2~3年は遅れていた印象でしたから、地方展開には苦労もありました。そもそも「クラウドファンディングって何?」というところからのスタートでしたから。でも、その分だけ伸びしろも大きかった。今は全体の3~4割が地方発のプロジェクトです。

企業が一方的に「自分語り」をしているようではダメ

本田:地方にはある種の「保守性」みたいなものもありませんか?

坊垣:それは否定できませんね。でも私は保守的であることが絶対悪だとも考えていません。保守的だからこそ、守られてきたものもたくさんあると思うんです。だからこそこれからは、その企業や地域にとって大切な「本質」を維持したまま、いかにそれ以外の部分を変化させていくかが重要になるのではないでしょうか。

本田:それは地方企業だけではなく、老舗企業にも共通する課題ですよね。守らなくてはならない「伝統」や「本質」はあるのだけれど、それに引っぱられすぎると企業としての「見せ方」や「売り方」といったコミュニケーションの部分がアップデートできなくなってしまう。そのせいで新規顧客を逃している企業も少なくありません。守るべきところは守りながら、変えるべきところは変えていく。マーケティングやブランディングを考える上でも、大切な視点だと思います。

そういう意味では、Makuakeを使うこと自体が、地方企業にとっては大きな「変化」なのではないでしょうか?
坊垣:それはあると思いますね。ほかにも地方の企業にMakuakeでプロジェクトに挑戦していただきたい理由はいくつかあって。そのひとつが「外側からの視点」を得られる事だと考えています。地方の場合、取引先も関連会社も関係性が固定されていて、もうずっと同じ顔ぶれで同じ仕事をしていることも多いと思うんですよ。そうすると、どうしても思考が内側に向いてしまいます。

本田:ある意味で客観性もなくなってしまう。

坊垣:そうなんです。新しい情報も入ってこないから、どう変わっていけばいいのかもわからない。けれどMakuakeを使っていただくと、「初めてユーザーと直接お話した」とか「これまでとは違った売り方を試したことで気づきがあった」とか、何かしらの発見があるはずです。

ほかにも「Makuakeでのプロジェクトに成功したことが社員の自信につながって、新しいアイデアがどんどん生まれるようになった」とか、はたまた「プロジェクトページを読んで感動した代表の息子さんが、後継者として帰ってきた」とか、そういった声もいただいていて。Makuakeが変化のきっかけになっていることは、私としてもすごく嬉しいですね。
本田:プロジェクトを通じて、登場人物が増えていくイメージですよね。ナラティブは「紡いでいく」ものだから、企業が主役になって一方的に「我が社の歴史を聞いてくれ」みたいな「自分語り」ばかりでは成立しない。そうではなくて、多くのステークホルダーを登場人物として巻き込みながら、彼らにも物語を語ってもらわなければならない。今の坊垣さんのお話を伺って、Makuakeはまさにナラティブの製造装置になっているのだなと感じました。

世の中が成熟したからこそ、より一層ナラティブが重要に

坊垣:そこは私たちとしてもすごく意識してきた部分です。Makuakeは、単なるECではなくて、メディアでもあると思っているので。「企業を知る」「背景を知る」「こだわりを知る」「ものを知る」といったプロセスを消費者が体験できるようにプロジェクトページを構成しています。

特に最近は、プロダクトの「こだわり」が女性ユーザーにも響くようになってきています。以前はそういう部分に反応するのは、男性が中心だったんですよ。実際に、ユーザーの比率も6:4で男性が多かった。けれどコロナ禍での巣ごもりの影響もあってか、この一年で女性のユーザーが増えてきています。

本田:最近、特に女性から反応が大きかったプロジェクトはありますか?
坊垣:「VORONOI」という山梨のジュエリーブランドのプロジェクトは反響が大きかったですね。みなさんあまりご存じないかもしれないですが、山梨はジュエリーの産地なんです。だから加工技術もすごく高い。それを生かして彼らが作ったのが、宝石部分が「うるうる」と水面のようにきらめく新感覚のジュエリーです。約一週間で一千万円以上の支援を集めていました。

本田:これはすごいですね。なんというか、日本的な美しさを感じます。

坊垣:まさに日本の職人技の結晶ですよね。こういうものが若い女性に広まっていくことって、すごく夢があると思うんです。ただ可愛いだけじゃなくて、「職人のこだわり」が乗っかっている。プロジェクトページもそこが伝わるよう工夫しました。

本田:女性の増加以外では、ここ数年でユーザーにどのような変化があったと感じていますか?

坊垣:消費者意識はすごく変わりました。これは世界的な潮流でもあると思うのですが、今の消費者はストーリーにすごく敏感です。特にこの数年で「私が手にしているものって、どうやって作られてるんだっけ?」「それを作る裏側で、環境に負荷は生じてないかな?」といったサステナブルに対する意識が、どんどん高くなっています。

本田:私もそれは実感しています。坊垣さんは、なぜそうした変化が起きたのだと考えていますか?

坊垣:色んな要素があると思うのですが、私は社会の大きな流れとして説明することが多いですね。すごく端的に言うと、戦後の日本では経済的な豊かさがある程度まで達成されたから、次は精神的な豊かさを求めるようになった、という理解です。

本田:日本人が大人になった、成熟したということでもあるのかな。

坊垣:そうですね。世の中にはモノが溢れていて、普通に暮らす分には困らない。それでも格差とか環境問題とか、社会には課題がたくさんあって、ふと「これで良いんだっけ?」と思ってしまう。「幸せの定義」が多様化してきたということでもあるのでしょう。「いいクルマを買って、大きい家で暮らせば、それで幸せなんだっけ?」という当たり前の疑問を、みんなが持つようになったのだと思います。

本田:平成のある時期までは、成功のストーリーって画一的でしたよね。トレンディドラマなんかが良い例で、そこで語られるストーリーに誰もが憧れていた。マーケティングも「いつかはクラウン」のようなアプローチでよかった。でも、今ではもうそれは通用しません。100人いれば100通りの幸せがある時代ですから。だからこそ、ある意味では価値観がフラットになって、大企業も中小企業も平等に扱われるようになった。結果的に規模感よりも、志やこだわりから始まる物語、つまりナラティブをしっかりと見せることが大切になったのだと思います。

マクアケのビジョンが長いのには、理由がある

坊垣:自分でいうのはおこがましいですが、私たち自身も、「ナラティブ」に自覚的に取り組んできた企業だと思っていて。まずビジョンがちょっと変わっているんです。「生まれるべきものが生まれ、広がるべきものが広がり、残るべきものが残る世界の実現」というのですが、まあ普通に考えるとビジョンとしては長い(笑)。覚えられないし、響きがきれいな訳でもない。

でも、正直に表現しようとすればするほど、きれいで短い言葉にはまとまらなかったんです。それで悩んだ末に今の形に着地したのですが、結果的にはすごく良かったと思っています。

本田:すごくいいと思います。ものすごく今っぽい。徹底的に表現を切り詰めたタグライン的なビジョンも素晴らしいと思うんです。でも、何でもかんでもシンプルにする必要はないですよね。結局は、思いが伝わるかどうかです。削れなかったということは、このビジョンにMakuakeの本質がギュッと詰まっているのでしょう。これを無理やり半分くらいにしようとしたら、多分抽象度が上がって、誰でも言えるような言葉になってしまうはずです。

ちなみに、このビジョンはどういったプロセスで策定したのでしょうか?

坊垣:社員全員で考えました。まずはみんなでワードを出し合って、あとは有志のチームで議論を重ねていった形です。このプロセスを踏んだからこそ、社員の誰もが自分なりの思いを持って語ることのできるビジョンになったのだと感じています。部署によっては「作る」に関わっている人もいれば、「広める」に関わっている人もいる。それぞれの視点によって語ることもちょっとずつ変わってくると思うのですが、そういう余地がある部分も含めて気に入っています。

本田:まさに社員のみんなで紡げるナラティブですね。

ちなみに株式会社マクアケとしてのブランディングでいうと、最近では「クラウドファンディング」ではなく「応援購入」という言い方をされていますよね。そこにはどんな理由があるのでしょうか?
坊垣:クラウドファンディングって、「寄付」に近い意識があると思うんですよ。でも、それだと限界があると感じていて。じゃあ毎月みなさん、毎月の収入のどれだけを寄付していますかというと、本当に微々たる金額な訳で。それなら支出の大きな割合を占める「消費」の意識を変えていく方が、近道じゃないかと考えたんです。

欲しいものを買ったら、たまたまそれがサステナブルだったり、地域の伝統技術の存続に貢献するものだった。そんなイメージです。寄付ではないのだけれど、結果的に「応援」すべきところにお金が流れていく。そういう意味を込めて「応援購入」という言葉をつくりました。

誰もが参画できる「余白」を残すことが重要

本田:これからは、特にこういったプロジェクトを応援していきたい、といったイメージはありますか?

坊垣:私たち自身に「こういうプロジェクトが増えてほしい」というのはないんですよね。もちろんどんなプロジェクトが伸びるかは、目利きができます。けれど私たちがそれをジャッジして、成功しそうなプロジェクトだけを掲載していたら、多様性がなくなってしまう。

ユーザーのニーズも、すごく多様化していますからね。自分自身がプロダクトの魅力を語りたい人もいれば、単純に新しいものをいち早く手にいれたい人もいるし、サステナブルやエシカルに興味がある人もいる。応援コメントを書き込んだり、企業と直接コミュニケーションできるのが楽しいという人もいます。だからこそ、「残るべきもの」を決めるプロセスは、消費者に委ねるというのが、私たちのフィロソフィーです。
本田:なるほど。私はナラティブには「余白」が必要だと主張しているのですが、それとも重なる部分があるかもしれません。やっぱりガチガチに方向性を固めすぎると、誰も参加してくれなくなってしまう。それよりも、誰もが参画できる余地を残すことが、これからは大事になってくると思うんです。Makuakeの戦略は、消費者にとっても企業にとっても余白があって、共創構造が生まれやすいのでしょうね。

坊垣:「余白」の大切さは、私もすごく感じています。最近、BEAMSさんが「JAXAと宇宙飛行士の野口聡一さんを応援します」というプロジェクトを立ち上げたんですよ。リターンは宇宙服をモチーフにしたオリジナルアイテムで、とにかく完成度がずば抜けていたんです。プロジェクトの枠組みも、完璧じゃないですか。でも、蓋を開けてみると思ったほどは伸びなかったんですね。

本田:なるほど。なんとなくわかる気がします。それだけ完成されていると「応援」の気持ちが薄れてしまうのかな。

坊垣:そうなんです。私からも「少し完成されすぎていたかもしれませんね」とお伝えしたら、すごく納得してくれました。それでつい先日、BEAMSさんが原宿で手がけられているコミュニティスペースの発表イベントに伺ったら、役員の方が「今回は私たちもちょっと学びましたよ」と話しかけてきてくれて。

ショップと展示スペースと配信スペースを融合させた不思議な空間なのですが、そのなかにまさに「余白」があったんです。何も展示されていないエリアがあって、訪れた人が「私だったらここに何を展示しよう」と創造できる。ああ、良い余白だな、としみじみ思いました。

本田:素晴らしい。まさに誰もが参画できる仕組みですね。

坊垣:Makuakeで中小企業のプロジェクトが大きくハネるのも、同じ理由だと思うんですよ。良くも悪くも余白があって、それが愛される秘訣になっている。

本田:結局は、企業も人間と一緒なんですよね。完璧すぎる人って、ちょっと近寄りがたい。でも、ちゃんと志はあるんだけど、少し抜けてるところがあるような人って、ちょっと助けてあげたくなりますよね。結果的にそういう人が、人を巻き込んでいくのだと思います。なんだかMakuakeのすごさの秘密が、少しだけ垣間見えた気がします。

「Narrative Genes ~ナラティブの遺伝子たち~」

企業と社会の関係性が見直される時代に注目が集まる「ナラティブ」を
PRストラテジスト・本田哲也を中心に、企業経営、ブランディングの先駆者と共に考えるウェブサイト。

「ナラティブ」とは、企業と消費者(生活者、ユーザー)との「共体験」の物語のこと。
企業経営において重要な「共創」に着目した、新たなアプローチ概念です。

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