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メルカリのナラティブは、なぜ人を巻き込むのか? その答えは「一貫性」と「透明性」にあり!

メルカリのナラティブは、なぜ人を巻き込むのか? その答えは「一貫性」と「透明性」にあり!

メルカリの破竹の勢いがとまらない。国内最大のフリマアプリ「メルカリ」の利用者数は、月間1900万人。年間流通総額は6200億円を超える。さらに2021年4月には、グループ会社の手がけるスマホ決済サービス「メルペイ」の利用者数が1000万人を突破。名実ともに、ベンチャー企業から、C to Cマーケットのインフラを担い、さらに金融領域のインフラをも担う企業へと成長しつつある。同社の成長の原動力に「ナラティブの力がある」と明かすのは取締役President(会長)兼株式会社鹿島アントラーズ・エフ・シー代表取締役社長の小泉文明さんだ。人を巻き込むほど魅力的なナラティブをどのように紡いできたのか、お話を伺った。

パーセプションの変化は、成長戦略に基づく必然

本田:東証マザーズ上場前の2017年頃、メルカリのパーセプションって「イケイケのベンチャー企業」だったと思うんです。それが一年後の2018年には「CtoCのインフラを担うテクノロジー企業」といった社会性を帯びたパーセプションへと急速に変化していった。2017年時点では「『メルカリ』は泥棒市場だ」という調子だったマスコミの論調が、2018年には「スマホ上の巨大フリマを世界へ」へと変化していったことは象徴的です。このあたり、当時を振り返ってみていかがですか?

小泉:確かに僕たちは、本当に何も持たないベンチャー企業からスタートしました。それが上場する前後には、利用者が1,000万人を超えるようなサービスになっていた。単なるサービスではなく、生活になくてはならないインフラのような存在になってきた、という実感がありました。そうなってくると、社会的な責任を意識しないわけにはいきません。

メルカリが元々持っていた「若さ」とか「勢い」みたいなものも大事にしながら、少しずつ「安心」「セーフティ」というイメージを加えていくことは、成長戦略としても重要だと考えました。それに則って、パーセプションも意識的に変化させていった形です。

本田:そういった認識は、社内で自然と生まれたのでしょうか?

小泉:そうですね。代表の山田をはじめ、社員全員が「そうしないとマズい」という思いは共有していたと思います。事業が多角化し、特に「メルペイ」のような金融事業に参入するからには、「安心・安全」のイメージがなければ、お客様にも選んでもらえなくなってしまうでしょうから。

それに僕たち自身のモチベーションも変化していったんです。創業当社は、とにかく多くの人に使ってもらえるサービスをつくりたいと思うじゃないですか。けれど、1,000万人、2,000万人とユーザーが増えてくると、もっと本質的なモチベーションが湧いてくる。つまり「僕たちが頑張れば、循環型の社会を実現できるんじゃないか?」と、本気で思えるようになってきたんです。そのためには、やはりワンランク上の責任を、企業として負わなければならない。安全安心をしっかりケアしなければ、循環型の社会を支えるインフラにはなれません。

本田:さらりとおっしゃいましたが、ある程度まで自分たちのサービスが普及したときに、「循環型社会の実現」という本来やりたかったことにさっと戻れる。そこが素晴らしいですよね。パーパスがなくて、とにかく作ったプロダクトを売ろう、広めようという発想だと、なかなかできないことだと思います。

小泉:やっぱり企業のステージによって、求められるものは変わってきますよね。それが何なのか、自分たちでしっかりと議論しながら進められてきたことは大きいと思いますね。

人を巻き込む秘訣は、透明性を高めること

本田:メルカリの場合は、創業時のパーパスである「なめらかな社会を築く」の求心力が、非常に強いことが特徴ですよね。循環型社会の実現にしても、大元には「なめらかな社会を築く」というパーパスがある。それに対してみんなが「ああ、そうだね。いいね」という感じで、社員も株主も、ステークホルダーがどんどん巻き込まれている。改めての質問なのですが、そのあたりはどれくらい意識していたのでしょう?
小泉:パーパスが共感を呼ぶものであることは、大事にしてきました。そうでないと、なかなか大きなうねりを起こすことはできません。そのうえで、サービスはそれを体現するものであるべきです。サービスやプロダクトと、パーパスは、紐付いていないと意味がないんですよ。働き方にしても同じです。僕ら自身が「なめらかな社会を築く」ような働き方をしなくてはならない。

その一連の流れのなかで、情報をオープンにすることも心がけてきました。良いことだけでなく、悪いこともどんどん公開していく。すると批判もされますが、「じゃあここを変えよう」と気付くことができます。それで僕たちが改めれば「あ、あの会社はきちんと対応してくれるんだな。また声を上げよう」と、社会とのキャッチボールが生まれていく。

それがどんどん積み重なって、ステークホルダーみんなで少しずつパーパスに近づいていくイメージです。だからメルカリって、応援しがいがあるというか、巻き込まれることが楽しい企業だと思うんですよね。

「嘘っぽさ」はすぐに見抜かれる時代になった

本田:「対話しよう」という意識が根底にあるのでしょうね。だからまさに「一緒にやってる感」というか、堅く言うと「共創構造」が成立する。同じように情報開示や透明性を謳っていても、「説明責任を果たさなければ」みたいな意識だと一気に、コミュニケーションの回路は一気に閉ざされてしまいます。それにしても、こうしたメルカリのあり方は、どのように育まれたのでしょうか?

小泉:僕が一番怖いのは無関心なんですよ。嫌いっていうのは興味があるからで、好きになってもらえる可能性がある。でも、無関心はどうしようもない。だから例えば株主総会に来てくださるなら、どんなにネガティブなことを言う人でもありがたい。僕たちに「変わってほしい」と伝えにきてくれているわけですから。

あとは、それをしっかりと受け止めて、僕らなりにがんばって改善すればいい。もちろん先ほども言ったように、その一連のプロセスもオープンにします。そういうことをずっと意識してきたから、ここまで多くの人を巻き込んでこれたのかもしれません。

本田:今の話しとも通じると思うのですが、最近、Z世代と呼ばれるような若い子たちは「汗をかいている企業」を「いいな」と感じるそうなんです。綺麗事を言っているよりも、汗をかく姿を見せてくれる方がずっとかっこいい、と。だからPR戦略においても、透明性を高めていくというのは正解でしょうね。

昔は、すごく隠したがりましたよね。「ものづくり神話」みたいなものとの関係しているのかもしれません。未完成のものを世に出すのは恥ずかしい、みたいな。メッセージにしても、社内で完璧に議論をしつくしてからでないと、発信できない。でもそれだと最近の若い子には「急にきれいごとを言い出した」と思われてしまう。それよりも、試行錯誤の過程を含めて伝えるメルカリのようなやり方に共感が集まるのは、当たり前なのかもしれません。つまり、彼らはその不完全さに「ナラティブ」を感じているんです。
小泉:それは僕も実感しています。今はもう、みんなSNSに慣れて、きれいごとには飽き飽きしている。だから、プロセスも含めて、企業の「キャラクター」を出していかないと、もう誰も反応してくれません。それがツッコミでもいいんですよ。法人といえども、人格というか、「人間味」みたいなものを築いていかないと、エンゲージされない時代になったと思いますね。

鹿島アントラーズを経営するようになってからは、それをより一層実感しています。試合に勝っても負けても、僕のTwitterアカウントには結構ファンの方からコメントが寄せられるんです。それも含めて、エンゲージメントにつながっていると感じるんです。

鹿島アントラーズから、メルカリが学んだことは?

本田:鹿島アントラーズのお話を、もう少し伺いたいですね。アントラーズって、元々ものすごく地域に根付いたチームじゃないですか。そんなチームの経営を任されて、感じたことはありましたか?
小泉:一番びっくりしたのが、選手もスタッフの地域のみなさんも「すべては勝利のために」というミッションに、心から共感していたことですね。勝つことこそがアントラーズの存在意義。そこがガチッと共有されていて、本当に一枚岩なんです。「強い組織っていうのはこういうものか」と改めて気付かされました。

だから、その文化はこれからも大事にしていきたかった。そういう意味も込めて、僕たちは「アントラーズのフットボールは変えません」と最初に明言しました。そもそもアントラーズって、日本を代表するすごいクラブで、これまでタイトルを20個も獲得してきた歴史があるのだから、それを尊重します、と。

ただ一方で、「ビジネス面は変えていきましょう」と訴えました。VRやARによって視聴体験がどんどん変わっていくのだから、きちんと対応して収益化していかなければならない、と。でもそれも「儲けるため」ではありません。あくまでも大切なのは「勝つこと」。収益化を目指すのも、チームの補強にはお金がかかるからです。
本田:なるほど。「すべては勝利のために」というミッションはそのままに、「勝ち方」だけをちょっと変えてみようと。反対にいうと、ミッションを守り抜くために、変えなければならない部分があったということですね。

小泉:伝統と革新のバランスは、常に意識してきました。それはある意味で、メルカリの経営においてやってきたこととも近いかもしれません。そもそも、メルカリとアントラーズって、似ているんですよ。鹿嶋という小さな町でがんばってきたアントラーズはベンチャー企業です。じゃあなぜそんなベンチャー企業が、日本代表するビッグチームになれたのかというと、彼らがミッションに忠実だったから。僕はついそこにメルカリを重ねてしまいます。だから僕たち自身も、より一層自分たちのパーパスを大切にしようと思うようになりました。

本田:サッカーとベンチャー企業というと、一見すると全く別の領域だけれど、実は「強い組織をつくるコツ」は共通していたと。興味深いお話です。

小泉:組織づくりという面でも、共通点はあります。サッカーチームも企業も、プロフェッショナルが集まって、高いパフォーマンスをめざすひとつの組織です。ところがプロであればあるほど、どの組織でも結果が出せてしまう。だからこそ「なぜその組織なのか?」が大事になってくるわけです。なぜアントラーズでプレイするのか。なぜメルカリで働くのか。それを左右するのは、やっぱりミッションやパーパスにどれだけ共感してもらえるかだと思います。

ワクワクするナラティブを、社員から語ってもらうために

本田:人が企業をどう選ぶかは、この数年で大きく変わりましたよね。企業の知名度や給与の高さだけでは、人が集まらなくなっている。むしろ、その企業がそれだけワクワクするナラティブを語れるかが、試されている気がします。

小泉:そうですね。なかでも優秀なエンジニアは人材獲得競争が激しいので「選んでもらえる企業たりうるか」というのは、僕たちも常に危機感を持ってきました。そのなかで心がけてきたのは、自分たちの魅力を企業側が喧伝しない、ということです。やっぱり嘘っぽくなっちゃうんですよ。

だから魅力の発信は、社員に任せてきました。もちろん、「自由に発信していいよ」と言われるとみんな困ってしまうのですが、そこでもバリューが指針となります。バリューに基づいていれば、あとは思い通りに発信して大丈夫。そんな雰囲気作りを心がけてきました。

本田:やはり、どこまで言っても重要なのはパーパスですね。メルカリでは、どのようにパーパスを定着させてきたのでしょうか?

小泉:創業間もない頃は、毎週全社の定例ミーティングでメッセージを発信していました。経営者って社員に「またか」って思われるのを嫌いますが、僕はむしろ「またか」って思われるぐらいしつこく言い続けないとダメだと思っています。

もちろん、言葉だけではダメで。やっぱり働き方のなかにも、パーパスを体現するものがないといけない。例えば、弊社だったらSlackのほとんどのチャンネルがオープンだったり、社長室や会長室がなかったり。そういうところに一貫性があるから、社員も「パーパスに嘘をついていない会社」だと感じてくれるのではないでしょうか。実際に入社してみたら、外から見るよりずっとフラットな会社だった。そんな風に感じてもらいたいんです。

本田:パーパスと行動の一貫性は、本当に重要ですね。メルカリはまさにそこがバチッとハマっていると思うのですが、なかなかそうはいかない企業も多い。パーパスをつくって、社員に説明したまではいいものの、そこから何をすればいいのか全然わかっていなかったり。実際に、パーパスにそぐわない部分を改めていこうとしても、「じゃあ誰がそれをやるの?」となってしまう。

小泉:ああ、それはありそうですね。でも、会社って、パーパスに近づいていくことが使命だと思うので、少しずつでも、とにかくやるしかないんです。

僕たちにしたって、実は大きなターニングポイントはありません。振り返ってみると「だいぶ変わったね」とは思うけれど、やっている間は気付かないものです。これもスポーツと似ていてますね。アスリートが成長している時期って、自分では停滞しているように感じるそうですから。けれど実はその間に、すごく強くなっている。きっと企業も同じで、結局はどれだけ続けられるかなのかもしれません。

本田:まさに継続は力なり、ですね。

「Narrative Genes ~ナラティブの遺伝子たち~」

企業と社会の関係性が見直される時代に注目が集まる「ナラティブ」を
PRストラテジスト・本田哲也を中心に、企業経営、ブランディングの先駆者と共に考えるウェブサイト。

「ナラティブ」とは、企業と消費者(生活者、ユーザー)との「共体験」の物語のこと。
企業経営において重要な「共創」に着目した、新たなアプローチ概念です。

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