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Adoやヨルシカ、ずとまよ。SNS全盛・新時代の覆面アーティストがファンと紡ぐナラティブ

Adoやヨルシカ、ずとまよ。SNS全盛・新時代の覆面アーティストがファンと紡ぐナラティブ

「うっせぇわ」でメジャーデビューを果たし、一躍社会現象を巻き起こしたAdoをはじめ、n-buna(ナブナ)とsuis(スイ)の2人組バンド「ヨルシカ」や、「ずとまよ」こと「ずっと真夜中でいいのに。」など、近年、素顔や本名、年齢を公表しない覆面アーティストが増え、ヒットチャートを賑わせています。

かつては、あえて素性を明かさないことでアーティストとしての「神秘性」を演出するケースが多く見られましたが、令和の時代の覆面アーティストはインタビューや音楽番組への出演、SNSでの発信も厭わず、ファンとの距離が近いという特徴があります。今回はそんな、新しい時代の覆面アーティストがファンと紡ぐナラティブを紐解きます。

メディア露出も積極的な令和の「覆面アーティスト」

最近のチャートを賑わす覆面アーティストの代表格といえば、Adoが挙げられるでしょう。2020年の10月に「うっせぇわ」でメジャーデビューを果たした当初は18歳の女子高生という情報だけが公表され、その歌詞と相まって大きな話題になったのは多くの人がご存じのとおり。21年には「ユーキャン新語・流行語大賞」のトップ10に「うっせぇわ」が選出され、「第63回輝く!日本レコード大賞」では特別賞を受賞。

出典:https://www.universal-music.co.jp/ado/products/uv1as-00520/

その後も快進撃は続き、22年1月には1stアルバム「狂言」をリリース。映画「ONE PIECE FILM RED」では「新時代」をはじめとする主題歌・挿入歌を7曲手がけ、アルバム「ウタの歌 ONE PIECE FILM RED」もヒットを記録しました。このように輝かしい経歴を持つ彼女ですが、過去に出演したラジオ番組で匿名の理由を語っています。その理由は「歌には興味があったけど、自分にスポットが当たるのがイヤだった」「顔も本名も出さずに活躍しているニコニコ動画の歌い手(動画サイトでカバー楽曲を披露するユーザーのこと)を見て、私もそのように活動したいと思った」といったものでした。

Adoの特性は、主に70年代に活躍したシンガーソングライターの森田童子と比較すると分かりやすいかもしれません。彼女はカーリーヘアにサングラスというルックスで、メディアへの露出もほとんどなくプライベートを公開することもありませんでした。93年にはテレビドラマ「高校教師」の主題歌として、76年発売のシングル「ぼくたちの失敗」が起用されリバイバルヒット。これにより森田童子というシンガーが多くの人に認知されることになりましたが、当時もメディアへの露出は皆無でした。

(出典:https://www.universal-music.co.jp/morita-doji/products/upcy-9847/)

テレビやラジオなどのメディアに出演して、ライブやイベントで多くのファンに情報を届け、楽曲を知ってもらう必要があった昭和のアーティスト戦略において、真逆を行く森田童子のあり方は異例でした。この徹底してメディア露出を抑えたことが彼女の神秘性を高め、今なお語り継がれるシンガーになった遠因と言えるでしょう。

一方のAdoは森田童子などのミステリアスさを持ち合わせたアーティストとは異なります。23年の4月からはニッポン放送「Adoのオールナイトニッポン」のパーソナリティをつとめ、「明るい陰キャ」として軽快なトークを繰り広げています。リスナーとの距離も非常に近く、謎めいた雰囲気は皆無といえます。

メジャーデビュー後も、ライブ活動も活発でインタビューも積極的に受けており、SNSなどでの発信も行っています。このような行動は、メジャーデビュー後にAdoを知ったファンにとって「一人の人間として存在している」というリアリティを生み出しています。

Z世代だけではなく、昭和世代も共感

Adoのデビューシングル「うっせぇわ」は、インパクトのある歌詞と圧倒的な声量が特徴です。特にその歌詞と歌声に共感したZ世代の若者たちが、自分たちの世代の代弁者としてTikTokなどのSNSで曲を使うことで、曲の知名度と話題はさらに高まっていきます。さらにSNSで「歌ってみた」り「踊ってみた」りするなど、ただ「買う」ただ「応援」するではない、自ら発信する手段としてもAdoの曲が頻繁に使われています。このように新しい曲をTikTokなどのSNSで知ることが多い世代が、ユーザージェネレイテッドコンテンツとして、Adoの曲で「行動」をし、それがバズって、さらなる話題を呼ぶという新たなうねりが生まれていきました。

さらに多くの小学生たちが「うっせいわ」を口ずさむ一方で、Xでは40代〜50代の世代の人たちの「共感できる」という投稿が見られるようになります。なかには行動は違えど、1980年代に流行ったチェッカーズの「ギザギザハートの子守唄」や尾崎豊の「15の夜」などで綴られる「若い世代の心情」と似ているといった声もあり、かつての自分たちの心情や今の気持ちと重ねる言葉も多く投稿されています。

Adoの歌が伝える「メッセージ」は、覆面だからこそ、Z世代の共感を得て「行動」につながり、さらに小学生から昭和世代までの幅広い世代の心へと響いたのでしょう。Z世代のファンが「行動」を起こし、それが幅広い世代へと伝播していく過程は、新たな形でのアーティストとファンのナラティブな紡ぎ方であると言えるでしょう。

共感と行動は日本のみならず、世界へ

一握りの人間がメディアに出られた以前とは異なり、YouTubeやTikTokを利用すれば誰もが歌声や楽曲を発表できる現代。容姿や性別、年齢、名前、経歴などの情報を一切抜きにして、音楽のクオリティのみで勝負ができる、ある意味とてもフェアな環境といえるでしょう。

さらにAdoの楽曲は7曲が米ビルボードに同時ランクインし、「新時代」は1位を獲得しています。音楽性が評価されてSNSでバズり、「行動」へとつながる流れは、日本だけではなく世界へと通じていたと言えるでしょう。また2024年には全14都市を回る初のワールドツアーを実施し、7万人以上を動員しました。ツアーでは、SNSで人気の日本の歌謡曲のカバーを歌う場面も見られました。Adoは海外で、日本文化および日本の音楽の代弁者としての役割も果たし、日本国内とはまた違う形でファンとのナラティブを紡いでいるようにも見えます。

ファンに特定のイメージを抱かせず、楽曲だけで勝負できる覆面アーティストという戦略。その戦略が当たり前となった今、ファンとアーティストの両者は「音楽性」や「メッセージ」を起点に、Z世代ならではのSNS行動によってそのうねりを強固なものにしながら、「共感」の連鎖を生み出し、さらに海外のファンをも魅了していく新しい時代のナラティブを紡いでいくのでしょう。

「Narrative Genes ~ナラティブの遺伝子たち~」

企業と社会の関係性が見直される時代に注目が集まる「ナラティブ」を
PRストラテジスト・本田哲也を中心に、企業経営、ブランディングの先駆者と共に考えるウェブサイト。

「ナラティブ」とは、企業と消費者(生活者、ユーザー)との「共体験」の物語のこと。
企業経営において重要な「共創」に着目した、新たなアプローチ概念です。

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