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主流なき時代の政治とナラティブ──分断を超える「共創」の可能性

主流なき時代の政治とナラティブ──分断を超える「共創」の可能性

アメリカのドナルド・トランプ大統領やイタリアのジョルジャ・メローニ首相、フランスのマリーヌ・ル・ペン氏など、保守的で自国優先の政策を掲げる政治家の存在感が増している2020年代。多様性の推進や移民政策をめぐる社会的議論が深まるなか、自国の利益を最優先する考え方は、欧米を中心に広がる一つの政治潮流となっています。日本でも史上初の女性総理となる高市首相が誕生し、「日本列島を、強く豊かに」というスローガンのもと、保守的な政策に対する支持が高まっています。こうした世界的な動きの背景には何があるのでしょうか。政治とナラティブとの関係性を紐解きます。

「強い日本の復権」を掲げ、若年層からの支持を得る高市政権

2025年10月21日、自民党の高市早苗総裁が第104代首相に指名され、憲政史上初の女性総理が誕生しました。発足直後の内閣支持率は82%と小泉内閣以来の高水準となり、その後の報道各社の調査でも高い支持率を維持しています。

2025年11月の調査では、高市内閣の支持率は若年層・現役世代が8割超と高く、高齢層になるにつれて下落傾向にあります。従来の自民党の支持基盤は主に高齢層が中心でしたが、高市内閣の発足により世代構造が変わる可能性も指摘されています。

高市内閣が高い支持率を維持する背景には、初の女性首相という象徴性や世界的に広がる「自国優先」や「保守化」の潮流と共鳴する側面もあると考えられています。高市首相は基本理念として、「自然災害被害を軽減するための防災対策の促進」「領土や資源を守る国防体制の構築」「経済安全保障の強化」「犯罪への対策強化」など、日本を守る政策を柱に掲げています。

さらに、成長投資を通じた国力強化を目指し、「AI・半導体」「造船、量子」「合成生物学・バイオ」「航空・宇宙」など17の重点分野を示しました。これらは「高市銘柄」として市場の関心を集め、政権発足前後には株価にも期待感が反映されました。

また、同時に高市首相の「コミュニケーションの力」も見逃せません。例えば、安全保障や経済政策といった硬派なトピックを論理的に語る一方で、自身の過労を厭わない姿勢を「働いて、働いて、働いて」という言葉に乗せて感情に訴えかけます。この「自己犠牲」のナラティブは、既存の政治家への不信感を持つ層に対し、「自分たちのために尽くしてくれるリーダー」という強い共感を生み出していると考えられます。

従来の政治家が「自分が言いたいこと」を発信していたのに対し、彼女は徹底して「聴衆が聞きたいこと」を起点にメッセージを構築している点が、高い求心力の源泉となっています。

社会の分断と、アメリカで台頭する「カウンターエリート」

世界的に自国第一主義が広がる背景には、グローバル化による恩恵の偏在と、それに伴う社会の分断があります。都市部のエリート層は国際経済の拡大によって機会を得た一方、恩恵から取り残された層では不平等感や政治への不信が強まりました。こうした「主流」とされてきた価値観や語りが十分に機能しなくなるなかで、新しい影響力を持つ存在が生まれています。

この構造が最も鮮明に表れたのがアメリカです。既存の政治エリートへの反発を背景に、いわゆる「カウンターエリート」と呼ばれる存在が台頭しました。ドナルド・トランプ大統領、J・D・ヴァンス副大統領、ピーター・ティール氏らは、既存秩序への不信や不満が蓄積する“空白”に入り込むようにして支持を広げてきました。

日本もまた、こうした世界的潮流と無関係ではありません。長く続く経済停滞や将来不安、格差意識の広がりにより、「現状を打開したい」という心理が社会全体に広がっています。その心理的な空白を背景に「強い日本の復権」というメッセージが受容されやすくなっていると指摘されます。世界各国で自国優先の姿勢が支持を集めるのと同様に、日本でも“再び力を取り戻したい”という感情が政治的支持の背景に存在していると言えるでしょう。

ポピュリズムを乗り越える、共創のナラティブ

2020年代の政治を語るうえで欠かせないのがSNSを通じた「非言語コミュニケーション」の影響力です。 対人コミュニケーションにおいて、言語情報(話の中身)が与える影響はわずかで、視覚や聴覚からの情報が印象の大半を占めるという言説もありますが、現代の政治家やビジネスリーダーにとって、「何を言うか(コンテンツ)」以上に「どう見えるか、どう響くか(デリバリー)」が重要視される傾向は強まっています。

また、SNS上では支持者と共にメッセージが紡がれていくという特徴もあります。政治家の発信は動画とともに拡散され、支持者がハッシュタグを付けることでさらに広く波及していく。今や政治的メッセージは、従来の「上から下」ではなく、支持者とともに紡がれる「共創の物語」へと変わりつつあります。

一方で、複雑な課題よりも「わかりやすい敵」や「強い物語」を好む傾向を増幅させ、ポピュリズムを強める側面もあります。「自国第一主義」という単純明快なメッセージが、慎重な議論を押し流してしまう危うさも否定できません。

ナラティブを紡ぐということは、単純化されたメッセージで大衆を動員するのではなく、異なる立場の人々をつなぎ直し、分断を超えて共創を生み出すことです。

聴衆が求める言葉を投げかける「戦略性」と、異なる立場の人々に耳を傾ける「共感性」を両立させること。 「共創のナラティブ」をどのように構築していくのか——その問いは、政治家だけでなく、これからの時代を生きるすべてのビジネスリーダーにとっての重要なテーマなのかもしれません。

「Narrative Genes ~ナラティブの遺伝子たち~」

企業と社会の関係性が見直される時代に注目が集まる「ナラティブ」を
PRストラテジスト・本田哲也を中心に、企業経営、ブランディングの先駆者と共に考えるウェブサイト。

「ナラティブ」とは、企業と消費者(生活者、ユーザー)との「共体験」の物語のこと。
企業経営において重要な「共創」に着目した、新たなアプローチ概念です。

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