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国境を越え、ファンと共に紡ぐ。リアルへ広がる、アニメと漫画のナラティブ

国境を越え、ファンと共に紡ぐ。リアルへ広がる、アニメと漫画のナラティブ

アニメや漫画は、もはや「日本のカルチャー」という枠を超え、世界の共通言語となりつつあります。2020年より週刊少年ジャンプで連載されている『SAKAMOTO DAYS』は、2025年上半期にNetflixで最も再生された作品となり、韓国のWeb小説を原作とする『俺だけレベルアップな件』は漫画配信サイトの「ピッコマ」でWebToonとして連載され、現在までに累計PV数6.5億回を記録しました。

さらに、『美少女戦士セーラームーン』の影響が見られるアニメ映画『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』は映画本編のヒットにとどまらず、劇中歌『Golden』が全米シングル・チャートの1位を獲得しました。

なぜ、これほどまでに多様な国と文化をまたいで共感を呼ぶのか。その鍵は、作品そのものはもちろんのこと、ファンと共に紡がれ、現実へ広がっていくナラティブの力にあります。

普遍性と「解釈の余白」が共感を生む

現代のヒットコンテンツに共通する要素として、文化の壁を超える「普遍的なテーマ」と、視聴者の想像力を刺激する「解釈の余白」が挙げられます。これにより読者は物語を「自分ごと」として捉え、主人公や登場人物に自分自身を投影しながら没入体験ができるのです。

『ドラゴンボール』『キン肉マン』『キャプテン翼』『聖闘士星矢』『SLAM DUNK』などの大ヒットにより、80年代〜90年代にかけて黄金期を迎えた週刊少年ジャンプ。そこで培われた「友情・努力・勝利」の三大原則は、時代や国境を越えて読者の心を掴んできました。

Netflixでの実写化が決まった『俺だけレベルアップな件』の主人公は、人類最弱兵器と呼ばれる最低ランクのハンター「水篠 旬(みずしの しゅん)」。主人公が数多くの試練を乗り越え最弱のハンターから最強を目指す様は、「自分もいつか成功できる」という希望のナラティブを視聴者に提供し、世界的な共感を呼んでいます。

序盤では弱いキャラクターが物語の進展とともに成長して、めざましい活躍を遂げるという展開は歴代ジャンプ作品にもよく見られます。『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』の主要キャラである魔法使いのポップは、序盤こそ臆病な泣き虫キャラだったものの、数々の冒険を通じて成長を見せ、最終的には主人公のダイをサポートする欠かせない存在となり、ファンからも「もう一人の主人公」と呼ばれています。この、落ちこぼれのキャラが仲間たちとともに成長するというプロットは『僕のヒーローアカデミア』や『キン肉マン』などにも共通します。

ファン主導の二次創作が広げるナラティブ

優れたコンテンツには細部を読者の想像に委ねる「解釈の余白」が存在します。この余白がSNS上での活発な議論を生み出し、独自の視点による「考察サイト」や、ファンが自ら「物語の続き」や「アナザーストーリー」を創造する「二次創作」の源となっています。特に同人誌やコスプレ、MAD動画などのファンが主導で生み出す二次創作市場は巨大な規模となり、公式のナラティブをさらに強固にしていきます。

1975年に始まり今年50周年を迎える同人誌即売会のコミックマーケット(コミケ)は、今や世界最大規模。矢野経済研究所の調査によれば、同人誌市場は2023年度にユーザー消費金額ベースで約1,280億円(前年度比37.9%増)、2024年度には約1,340億円に達すると予測されています。

出典:(株)矢野経済研究所「オタク市場に関する調査(2024年)」(2025年2月5日発表)

注1. 「インディーゲーム」は2021年度より、「音声合成」は2022年度より調査を開始したため、これ以前のデータは算出していない。また、本調査より市場定義の再定義を行ったため、いずれの分野も過去公表値とは異なる。
注2. 「歌声音声合成」は歌声合成、音声読み上げ、ボイスチェンジャーなどの音声合成に関するソフトウェア、またこれらのソフトウェアに設定されているキャラクターに関連するグッズ(商品)などの物販で構成される。
注3. 2024年度は予測値

大きな市場となった二次創作を入り口として公式の作品に興味を持つファンも少なくありません。さらに、同人誌での活動を経てオリジナルの作品を生み出し、プロの作家として活躍するケースもあるように、今や公式と二次創作がともに物語を育む関係が生まれています。

二次元から「リアル」へと拡張するナラティブ

アニメや漫画の物語は、リアルな世界にも影響を及ぼします。物語の舞台となった実際の場所を訪れる「聖地巡礼」は国内のみならず海外のファンからも注目され、地域経済に多大な貢献をしています。新海誠監督の『君の名は。』の舞台となった岐阜県飛騨市は、作品に関係する市内の聖地を一覧できるマップを作り配布したり、市の公式SNSアカウントでも広報活動を行ったりすることで、ファンと作品と地域住民が一体となった観光ナラティブを紡いでいます。

女子高生が戦車に乗って戦う「戦車道」を極めるという破天荒なストーリーのアニメ『ガールズ&パンツァー』は茨城県東茨城郡大洗町が舞台となっており、作中には実在のスポットが数多く登場します。町内には作品の各種グッズを取り扱う大洗ガルパンギャラリーが作られ、毎年開催される「大洗あんこう祭り」では『ガールズ&パンツァー』の関連イベントも開催されるなど、数々の地域タイアップを実施しています。また、同町が2015年にふるさと納税の返礼品にガルパングッズを追加したところ、1カ月間で1億6,000万円以上の額が集まるという記録を樹立するなど、地域に大きな経済効果をもたらしています。


アニメや漫画は、もはや画面の中に留まりません。ファンによる二次創作や聖地巡礼を通じ「リアル」へと拡張し、人と人、文化と文化を結びつける“共有体験”へと進化を続けています。
その広がりこそが、アニメと漫画を、国境を越えて愛される存在にし、私たちの世界に新たなナラティブを生み出しているのです。

「Narrative Genes ~ナラティブの遺伝子たち~」

企業と社会の関係性が見直される時代に注目が集まる「ナラティブ」を
PRストラテジスト・本田哲也を中心に、企業経営、ブランディングの先駆者と共に考えるウェブサイト。

「ナラティブ」とは、企業と消費者(生活者、ユーザー)との「共体験」の物語のこと。
企業経営において重要な「共創」に着目した、新たなアプローチ概念です。

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