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経営危機に陥った土産物店から、グローバル化粧品ブランドへ。北海道砂川市発「SHIRO」が紡ぐナラティブ戦略

経営危機に陥った土産物店から、グローバル化粧品ブランドへ。北海道砂川市発「SHIRO」が紡ぐナラティブ戦略

創業した北海道の地を活性化させるプロジェクトを立ち上げ、地元経済の振興、雇用の創出を実現し、さらには北海道ベースボールリーグの新球団を設立した化粧品メーカーがあります。土産物などの製造・販売を手がけていた株式会社ローレルを前身とする株式会社シロは、自然由来の化粧水や美容液をはじめとする高品質なコスメ製品から、クッキー、はちみつ、オレンジジュースなどのオーガニック食品を展開する「SHIRO」ブランドで消費者の心をつかんでいます。シロの創業者にして、現会長兼ブランドプロデューサーの今井浩恵氏はどのようにして多くのファンを巻き込み、SHIROを全国区の人気ブランドに成長させていったのか。その軌跡を辿ります。

本当に自分が満足できる製品を作るために

(出典:https://hello.shiro-shiro.jp/company/history/)

シロの前身であるローレルは1989年に創業。北海道砂川市に東京ドーム約10個分という広大な土地を所有し、ハーブや石鹸などの通信販売、ジャムやドレッシングなどの卸販売を手がける企業でした。1995年にローレルに入社した今井氏が社長に就任したのは2000年、26歳のときです。経営が傾いていた同社を買い取るという異例の形での就任でした。当時は石鹸の製造をOEM受託する中で、化粧品の製造にも進出し始めた時期。数年で売上は就任時から倍になり経営を立て直すことには成功しましたが、数々のOEMを手がける中で生まれたのは、「より高品質かつ自分でも満足のできる製品を作りたい」という思いでした。今井氏は早速行動を起こし2009年には自社ブランドの「LAUREL」を、2年後の2011年にはスキンケアブランド「sozai LAUREL」を立ち上げます。良い製品を生み出すには良い素材から。世界各国から原料を調達しているラッシュやロクシタンなどのブランドを参考に、本当に納得できる化粧品の原料を追求します。

廃棄されていた昆布が美容液の原料に

「sozai LAUREL」は「自ら生産者に会い、その想いを伝える」「自分たちが本当に使いたいものを作る」「製品作りを通して、世の中をしあわせにする」という3つのコンセプトを掲げています。ブランドを代表するベストセラーの「がごめ昆布美容液」は、その名のとおり函館名物のがごめ昆布を原料にした美容液です。がごめ昆布特有の強いとろみは高い保水力を誇り、肌にハリとうるおいを与えます。栄養価が高いがごめ昆布は食用として親しまれていますが、すべてが食べられるわけではなく、特に石に付着した部位は硬すぎるため廃棄されていました。その廃棄された部位を地元の漁師から譲り受け「がごめ昆布美容液」の開発をスタートさせました。

(出典:https://hello.shiro-shiro.jp/product/package-design/)

通常ならば廃棄されるがごめ昆布には網やビニールなどが付着しており、そのままでは原料になりません。手作業で選別して、乾燥後にカットしてから水に漬け込みます。こうすることで、がごめ昆布が持つとろみ成分を抽出するのです。ベストなとろみ成分を抽出するための水温や時間も試行錯誤によって学んでいきました。がごめ昆布を使用した製品は美容液以外にもバスパック、化粧水、石鹸がありますが、最も濃厚な昆布エキスを配合しているのが美容液です。がごめ昆布は外部からの影響を受けやすい性質のため工場には専用の部屋が用意され、製品化までの工程はほぼ手作業で行われています。自分たちの理想とする製品を実現するために各地の生産者と出会い、人にも環境にも優しいものづくりを心がける。この実直な姿勢はSHIROのWebサイトでも公開されており、多くのファンを巻き込むナラティブな構造を作り上げています。

2014年にはOEM事業から撤退し、ブランドとしての独立を果たします。2015年には自社ブランド名を「LAUREL」から「shiro」へ変更。さらに、初となる旗艦店でカフェを併設した砂川本店、トータルビューティサロンの「SHIRO BEAUTY」をオープンさせます。2016年と2018年にはロンドンとニューヨークにも進出。かつて経営危機に陥っていた北海道の一企業が、約20年という時間をかけて海外展開をするまでに成長しました。

コロナ禍で消費者が求める消毒スプレーを緊急生産

2019年にはリブランディングとして「shiro」から「SHIRO」に表記を変更し、パッケージデザインも一新。企画・製造・販売のすべてを自社で手掛け、卸売りはしない。これがSHIROの一貫した哲学です。コロナ禍においては、刺激が少なく香りの付いた消毒スプレー「チャクラーサナ ハンドリフレッシュナー」を開発して見事にヒット。一刻も早く消費者の手に届けるために、自社工場での既製品の生産ラインを一部ストップさせ、他の製品で使う予定だったボトルも代用しました。街の多くの店舗が休業を余儀なくされる中、自社のECサイトのみで3日間で22万個を売り上げています。これも企画・製造・販売の全工程を自社で行っていたからこそ実現できた製品開発でしょう。

(出典:https://hello.shiro-shiro.jp/company/history/)

コロナ禍の影響で店舗販売が難しくなった20年の春からは、毎週1時間のインスタライブを実施しています。顧客との対面コミュニケーションの場が限定されている状況下において、Webで新製品の情報発信をしたりお悩み相談会を開催したり、積極的な発信を継続しています。化粧品メーカというと、女性スタッフが前面に出る機会が多くなりがちですが、SHIROのインスタライブでは男女のスタッフを組み合わせて配信を行っていることも特徴のひとつです。

ブランド発祥の地を市民と共に盛り上げるナラティブの構図

SHIROというブランドを語る上で欠かせないのが、ブランドが生まれた北海道の砂川市の活性化を目的とした「みんなのすながわプロジェクト」でしょう。今井氏は2021年6月末で代表取締役社長を退任して、代表取締役会長兼ブランドプロデューサーとして同プロジェクトに注力することを発表しています。

(出典:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000084.000032936.html)

砂川市の現在の人口は約16,000人ですが、2060年には人口が9,000人を切るという予測もあります。砂川で約20年間生活をした今井氏はこの現状に危機感を覚え、アクションを起こすことを決意。「みんなのすながわプロジェクト」の中核となるのは、2022年の12月に完成を予定しているSHIROの新工場です。社有地の約18000平方メートルの広大な土地に新工場を設立し、さらに2023年の春にはアスレチック広場や子どもたちの職業体験コーナー、放課後学校などの併設を予定しています。

もうひとつの目玉が、北海道ベースボールリーグの新球団設立です。以前より砂川市で独立リーグの球団を作るという話はあったものの、スポンサーが見つからず頓挫した状態に。そこでシロがスポンサーとなり新球団「すながわリバーズ」を設立。所属する選手や球団スタッフは全員が砂川市民であり、市内に就業しています。選手たちがSNSを通じて球団や砂川市の情報を発信することで、市を広くPRして発展につなげていく展望を描いています。

「みんなのすながわプロジェクト」の目指すゴールについて、今井氏は「世界中から砂川に多くの人が訪れるようになること」と語っています。そこで例として挙げているのがフランスのロクシタンです。ロクシタンの本社工場はフランスのプロバンスにありますが、アクセスが良くないにも関わらず世界中から多くのファンが訪れる聖地となっています。いずれSHIROが世界的なブランドとなったときに、多くの観光客が砂川に訪れる未来が現実となるでしょう。人を巻き込み地域を巻き込み、化粧品メーカーという枠に収まらない発展を遂げるSHIRO。その発展の背景には、単に製品を作って売るだけではない、人と地域と社会を豊かにするナラティブの存在が見てとれます。

「Narrative Genes ~ナラティブの遺伝子たち~」

企業と社会の関係性が見直される時代に注目が集まる「ナラティブ」を
PRストラテジスト・本田哲也を中心に、企業経営、ブランディングの先駆者と共に考えるウェブサイト。

「ナラティブ」とは、企業と消費者(生活者、ユーザー)との「共体験」の物語のこと。
企業経営において重要な「共創」に着目した、新たなアプローチ概念です。

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