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「感情、直感、運」。原野守弘さんがビジネスパーソンに向けて語るクリエイティブの本質。

「感情、直感、運」。原野守弘さんがビジネスパーソンに向けて語るクリエイティブの本質。

人を真に「突き動かすもの」は何なのか。広告やPRに関わる多くのビジネスパーソンが、一度は抱いたことのある疑問だと思います。そんな問いにクリアな答えを提示してくれるのが、「NTTドコモ:森の木琴」や「日本は、義理チョコをやめよう。GODIVA」など、話題となり、自然と議論が起こるような広告を手がけている日本を代表するクリエイティブ・ディレクター、原野守弘さんです。『ビジネスパーソンのためのクリエイティブ入門』を上梓したばかりの原野さんに、人を動かすクリエイティブの秘訣を伺いました。

感情に訴えろ

本田:原野さんの近著『ビジネスパーソンのためのクリエイティブ入門』を読んで、まずハッとしたのが「偉大なブランドは、自分自身についてではなく、自分が愛するものについて語る。」という一節です。これは、原野さん自身が仕事をするなかで得た知見ですか?

原野:過去の広告を研究しながら、自分でもいろいろ試す中で気づいたことです。カンヌライオンズに選ばれるような広告って、本当に素晴らしいじゃないですか。そうした「名作」と呼ばれる広告には、どんな法則が隠れているのか、熱心に研究しました。たどり着いた一つの真理が、先ほど引用していただいた「偉大なブランドは、自分自身についてではなく、自分が愛するものについて語る。」ということでした。

本田:なるほど。ほかに、優れたクリエイティブに共通する法則はありましたか?

原野:最も基本的なことは、「感情に訴えろ」ということです。『クリエイティブ入門』の中にも書いていますが、人間は感情でしか動かないんです。「好き」という個人的な感情。そういう脳の仕組みになっている。科学的事実です。

一方、多くのビジネスマンは、そうした個人的な感情を「特異点」と決めつけて、無視してしまう。そして、調査やリサーチで「平均点」や「最大公約数」を見つけて、それを信じ込んでしまう。

しかしながら、iPhoneやビートルズなど、歴史的に大成功したものは、調査やリサーチからは生まれていません。一方、あらゆる企業が調査やリサーチに熱心ですが、それほど成功していない。冷静に考えれば、どちらに分があるのか、すぐにわかることです。

人間には「信じたいものを信じる」という弱点があります。詐欺師が利用する心理です。広告業界に蔓延る多くの調査やハウトゥは、それに近いものが多い。広告主が信じたいものを見せてあげれば、簡単に騙せてしまいますからね。そういう業者には注意しなくてはなりません。

また、日本には「広告(Advertising)と販促(Sales Promotion)が区別されていない」という特殊な事情もある。広告と販促では、目的が違います。広告は「好きになってもらうため」にやるもの。販促は「もっと売るため」にやるもの。この国で「広告」とされているものは、ほとんどが「販促」です。ネット広告代理店ではなく、ネット販促代理店と自称すべきです。

多くの広告主は、好きになってもらうこと、ブランドのファンになってもらうことの絶大な価値を理解していないから、一見客を集める販促活動に必死です。しかし、販促は麻薬のようなもの。一瞬の高揚はあるけれども、すぐに覚める。そしてまた欲しくなる。販促中毒です。

広告の目的は「売ること」ではない

本田:私もPRに携わるなかで、「すべてが販促キャンペーン化している」と感じることは多々あります。それにしても、広告と販促の違いは、業界内でもさまざまな人が論じてきましたが、原野さんの説明は明快ですね。
原野:言葉の定義に厳格な人には眉をひそめるかもしれませんが、「販促はもっと売るためのもの、広告は好きになってもらうためのもの」と言い切ってしまった方がわかりやすい。

カンヌを受賞した広告作品を見て、「これで売れるの?」とマウントをとろうとするおじさんは結構います。でも、その問い自体が間違っている。「広告」の目的は、売ることではないからです。

本田:広告によってファンが増えた結果として「モノが売れる」ことがあっても、それ自体は広告の目的ではないんですよね。

「地声」で語れ

本田:原野さんは著書のなかで、企業がその企業ならではの「トーン」で語ることの大切さを「地声で語る」と表現されていました。ここも、すごく共感したポイントです。

原野:声色は、語る人のアイデンティティです。声色をいつわると、すぐに何か変だなとわかります。いつも裏声でしゃべっていたら変な人だと思われてしますし、胡散臭いセールスマンの声色は、どこか胡散臭い。ブランドも同じで、それぞれのブランドにそれぞれのブランドボイスがあります。これを偽ることはできません。

アップルやナイキではないブランドが、それらを真似て広告をつくっても、何か説得力がないし、ちょっと違和感がある。「あなたはアップルでもナイキでもないよね」と突っ込まれちゃうわけです。ところが、広告は世に出るまではツッコミが入らない、というのが厄介なところです。広告主の会議室の中では、アップルやナイキっぽい企画を提案されると、みんなちょっとうっとりしてしまう。「私たちもアップルじゃないか」と勘違いしてしまう。それで「地声」じゃなくて「裏声」で語っているような広告がたくさん生まれてしまうわけです。

本田:原野さんが「地声」で語っていると感じる企業は、例えばどこでしょう?

原野:ポーラを担当していますが、地声で語ることにこだわっています。国際女性デーに掲載した新聞広告は、彼らの「地声」で語られています。
ポーラのユニークな点は、訪問販売からスタートしていることです。一度関係ができると、同じ販売員が同じお客様を担当するようになります。ただ化粧品を販売するだけでなく、メークの仕方などの相談にも乗ったりしてきた。だから、お客様との結びつきが、すごく強くなります。なかには「私が死んだら、死化粧をお願いね」と頼まれることもあるそうです。

だから、ポーラというブランドの核にあるのは、「人が人をケアする」という信念ではないかと考えました。そもそもポーラは、創業者が奥様の手のアレを「ケア」するために、ハンドクリームを自作したところから始まっているのです。

ただ化粧品を売るのではなく、「ケア」を提供しているのが、ポーラなんだと捉え直したわけです。人対人の販売をしているポーラでなければ語ることのできない、彼らならではの「地声」だと思います。

本田:確かに、同じ化粧品メーカでも、資生堂が「ケア」と言ったら、なんだかしっくりこない。まさにポーラらしさが表現された、私のキーワードでいうとオーセンティシティ、つまり「自分らしさ」のあるスローガンだと思いました。

最大公約数的なパーパスでは、共感が生まれない

本田:企業のパーパスにも、「地声」で語っていると感じられるものと、そうでないものがありますよね。その違いは、どこにあると思いますか?

原野:「パーパス」を広告代理店やコンサルティング会社に発注する企業は、たいてい事業領域が闇雲に多角化してしまった大企業です。中心を失っているという自覚があるから、パーパスを欲しがる。

ところがこういう企業では、「全事業部、全役員が納得するパーパスをつくろう」といった方向に進みがちです。そうすると、どうしても最大公約数的な、空虚なパーパスが生まれてしまいます。

企業のパーパスは、基本的には創業者の想いです。ブランドボイスとは、たいてい創業者の「声」なんです。そこに立ち変えるとその企業らしい「地声」が見つかるものです。

本田:まさに最大公約数的というか、「それは他の会社でも言えることでは?」というパーパスが、巷にあふれています。

原野:あれは本当に意味がない。

本田:否定はできないけれど、オリジナリティもない。「地声」で語れない企業には、誰も共感もしませんよね。そこから人を巻き込んでいくようなナラティブは生まれてこないと思います。

自分自身についてではなく、自分が愛するものについて語る

原野:残念なことに、日本の多くの企業は「地声」を見失っています。そこで、タレントに頼ります。人気タレントにスローガンを語らせておけば、なんとなく「地声」があるように錯覚させられる。一つの技術ではありますが、それが安易に使われすぎていることは気になりますね。

本田:本当は企業自身が語るべき言葉を、タレントに任せてしまっている、と。

原野:それにタレントに頼り過ぎることには、リスクでもあります。その人がスキャンダルを起こしたり、引退したりしたら、途端に困ってしまいますよ。

本田:企業自身が「地声」で語ることを前提とした上で、語られる内容についてはどうでしょうか? どうすれば共感を引き起こすことができるのでしょう?

原野:最初にお話しした「自分自身についてではなく、自分が愛するものについて語る」ということではないでしょうか?自分たちが「愛するもの」や「信じていること」について語るということに尽きると思います。それを、「確かにそうだよね」と、多くの人に感じてもらえたら、理想的です。人間には同じものが好きだと分かると連帯するという習性があります。これを利用したのが、ブランディングなのです。

「Just do it.」にしても「Think different.」にしても、人々が共感可能な想いをシンプルに語っています。

ここで注意してほしいのは、これらが、「最大公約数や平均値」や「いろんな事業部の調整」から生まれたタグラインではない、ということ。彼らはただ信念を語り、その結果として人々がついてきた。パーパス・ブランディングを頭だけで考えて語る人たちが見落としがちなポイントです。

起業家は「直感」で起業する

本田:共感を集めるパーパスにたどり着ける経営者と、そうでない経営者は、何が違うのでしょうか?

原野:ジョブズにせよ、孫さんにせよ、成功した起業家で、理屈をつきつめて起業した人はいません。直感に促されて行動を起こしている。そもそも結婚と同じく、起業のような先行き不透明なものを合理的に決められるはずがありません。「もしみんなが合理的に結婚や起業をするなら、この世の中は、独身者と歯医者だけになる」と、マルコム・グラッドウェルは言いました。

直感というのは、単なる思いつきとも違います。『クリエイティブ入門』にも書きましたが、脳の奥にある大脳辺縁系が、全身全霊の経験から照らし出す、一つの選択の道筋です。

本田:「総合的」とは、例えばどんなことを含むのでしょうか?

原野:本当にすべてです。仕事だけでなく、暮らしのなかで、見たり聞いたり触れたりしたもののすべてが積み重なって「これだ!」という判断がくだされている。そういった総合的な判断が、「直感」と呼ばれるものの正体だと思います。
本田:なるほど。「直感」といっても、単なる「思いつき」ではなく、膨大な情報の集積の上で、最終的に導き出された判断ということですね。

原野:そうなんです。だから一口に直感といっても、そのレベルには個人差があります。スティーブ・ジョブズの直感と、普通の経営者の直感の間には大きな隔たりがある。また、あらゆる市場で通用する「直感力」をすべて備えた経営者はそうそういません。だから、それぞれの分野で優れた直感を備えた人材を外から連れてくる。その人材を見出すのも、直感です。

本田:成功の鍵は、個人の直感が握っている、と。

原野:その通りです。先ほどの「最大公約数」ではダメだ、という話しともつながってきます。成功は、個人的な直感の賜物です。優れた個人の直感や感情を信じられない人には、成功は難しい。そこは強く言っておきたいですね。

優れた「ナラティブ」とは?

本田:「地声」で語ること、個人的に語ることの大切が、かなりクリアに見えてきました。一方で、強い共感を得るためには、タイミングや時代性も重要ですよね。「潜在的にみんな感じていたけど、まだ具体的に語っている人はいない」というタイミングで、それを上手く言語化すると、一気にナラティブとして「走り出していく」ような気がします。
原野:世の中にうっすらと存在しているけど、誰も口にはしていないことを発見して、ナラティブにすることで、広告は成功します。称賛とともに強い共感を得るからです。例えば、私は2016年に、「この国は、女性にとって発展途上国だ。」というポーラの広告をつくりました。今でこそ世の中はフェミニズム一色ですが、当時はそれについて語った広告はありませんでした。まさに時代の潮目に登場した広告です。しかし、フェミニズムは、私が始めたわけでもなく、ポーラが始めたわけでもありません。世の中に既にあったけれども公には語られていない想いを見つけて、代弁しただけです。優れたナラティブとはそういうものではないでしょうか?

本田:そのタイミングでGOサインを出してくれたポーラさんも流石ですね。

原野:直感に優れていた。女性が代表を務め、女性の「ケア」に向き合い続けてきたポーラだからこそ、「地声」で語ることができたメッセージだと思います。

本田:「広告で女性差別を訴える」という原野さんのアイデアと、それを必要とする時代性、そしてこれまでポーラさんが積み上げてきたパーセプションがすべて噛み合って、大きな共感を呼ぶナラティブが生まれたのですね。

全てうまくいったから大成功した

原野:いくつもの要因が重なって、はじめて掴めるのが本当の成功です。有名なアップルのコマーシャル、「1984」のCD、リー・クロウは、成功の原因を質問されて「全てうまくいったから大成功した」と答えています。

第一に、商品自体が革新的だった。一般消費者にも買える革新的な商品というのは、広告業界にもめったにない、と。

第二に、クライアントも先進的だった。「見たこともない広告をつくってくれ」というオリエンだったと後日語っています。スティーブ・ジョブズがいいそうなことです。

第三に、リドリー・スコットという、優れた監督と出会ったこと。彼の企画には、商品が一度も登場しなかったので、取締役会は企画を却下しようとしたと言います。しかし、スティーブ・ジョブズは「自腹でやる」と啖呵を切ったそうです。

こうしたさまざまな要因が見事に重なって、「1984」の成功があるわけです。

本田:まさに化学反応ですね。そう考えると『これさえ学べば広告の成果が10倍になります』みたいなハウトゥ本が陳腐に思えてきますよね。ノウハウさえ学べば誰でも成功できる、なんて幻想でしかない。

原野:クリエイターのワンアイデアで得られる成功なんて、たかが知れています。それ以上のことは、運とも言えますが、その運を引き込む「流れ」を作り出すのも実力のうちなのでしょう。

本田:喩えはちょっと不適切かもしれないけれど、麻雀みたいなものですよね。クリエイターも含めて、いろんな牌が揃って、はじめて大勝できる。

原野:安い手であがるのは簡単。大きな手を目指すなら、直感を信じる力や運を呼び込む力も必要なんでしょうね。 

「Narrative Genes ~ナラティブの遺伝子たち~」

企業と社会の関係性が見直される時代に注目が集まる「ナラティブ」を
PRストラテジスト・本田哲也を中心に、企業経営、ブランディングの先駆者と共に考えるウェブサイト。

「ナラティブ」とは、企業と消費者(生活者、ユーザー)との「共体験」の物語のこと。
企業経営において重要な「共創」に着目した、新たなアプローチ概念です。

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