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「Glossier」と「BIOLOGIC PHILOSOPHY」から学ぶ、ナラティブ的巻き込み術

「Glossier」と「BIOLOGIC PHILOSOPHY」から学ぶ、ナラティブ的巻き込み術

顧客をはじめとしたステークホルダーをいかに自分たちの事業に巻き込むか。多くの事業担当者が突き当たる課題ではないでしょうか。そうした悩みに答えるためのヒントになるのが、D2Cブランドによるナラティブの取り組みです。消費者と直接的に取引するD2Cのビジネスモデルでは、顧客を自分たちの物語に巻き込めるか否かが、事業の成否を握るといっても過言ではありません。そこで今回は、急成長中の2つのD2Cブランドを取り上げ、そのナラティブな仕掛けに迫ります。

「ナラティブであること」こそ、D2Cの最大の特徴

D2Cとは「Direct to Consumer」の略称で、企業や個人が企画・製造・販売までを一貫して行い、消費者とダイレクトに取引をする販売手法のこと。そのビジネスモデルの特徴としては「店舗賃料や人件費などを抑えられること」や、「SNSとの親和性の高さ」などが挙げられますが、それよりも目を向けるべきなのは成功するD2Cの多くが「ナラティブである」ことです。

実際に成功しているD2Cブランドの多くは、それぞれ固有の物語を前面に打ち出しています。その物語は、企業が単独で紡ぎ出したものではなく、顧客と共に共創的に生み出したものにほかなりません。つまり、企業と顧客とが、単に商品を介してではなく、ナラティブによって強く結びついているのです。

ミレニアル世代の圧倒的支持を集める、化粧品ブランド「Glossier」

こうしたナラティブの力を生かして急成長を遂げたブランドの代表格と言えるのが、アメリカの化粧品ブランド「Glossier」です。2014年にブランドがローンチされると、ファッションに対する感度の高いミレニアル世代の圧倒的な支持を受けて急成長。2019年には1億ドルを調達し、評価額12億ドルでユニコーン企業の仲間入りを果たしました。

Glossierがどのようなブランドであるかは、Webサイトを見ると一目瞭然です。そこに登場するのはモデルやセレブリティではなく、「普通の女の子たち」。その名もずばり「Glossier in real life」と題したページには、Glossierの商品を使ってメイクをした顧客が、Instagramに投稿した写真がずらりと並びます。Glossierはどこまでも「普通の女の子の日常使いの化粧品」であることを大切にしているのです。

顧客を「共謀者」に変えるコミュニケーション戦略

Glossierの美容ブログ『Into The Gloss』(https://intothegloss.com/

そもそもGlossierは、その設立経緯からして、非常にナラティブ的です。創業者であるエミリー・ワイスは、元々はファッション誌『VOGUE』のスタイリストアシスタント。そんな彼女が2010年に立ち上げた美容ブログ『Into The Gloss』は、ファッション・美容業界の著名人が美の秘訣やメイクのHow toなどを率直に語るインタビューコンテンツが読者の大きな共感を呼び、またたくまに人気ブログに。ここで形成された読者コミュニティは、そのままGlossierの初期の顧客へと引き継がれています。エミリー・ワイス自身は過去のインタビューのなかで、こうしたGlossier以前からの読者を「conspirators=共謀者」と呼んでいます。つまり、Glossierとは、著名人の美にまつわる「物語」に共感した「普通の女の子たち」を巻き込むことで、共創的に立ち上がったブランドなのです。

『Into The Gloss』をはじめ、InstagramやFacebookなどのメディアを通じて、ブランドや商品について顧客を巻き込みながら積極的な議論を行っていることもGlossierの大きな特徴のひとつ。ときにはエミリー・ワイス自らが、顧客のコメントに返信することもあるほどです。そうしたインタラクティブなコミュニケーションによって得た顧客のリアルな使用感は、新商品の開発に活かされています。まさに顧客との共創でプロダクトを磨いているのです。

「サーキュラーエコノミー」をコンセプトに掲げる「ナラティブ・ブランド」

「BIOLOGIC PHILOSOPHY」公式HPより

GlossierのようなナラティブなD2Cブランドは、国内にも存在します。2021年4月に立ち上げられたファッションブランド「BIOLOGIC PHILOSOPHY」(https://biologicphilosophy.jp/)はそのひとつ。

「ナラティブ・ブランド」を自称する彼らの物語の核となるのは「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」です。大量生産・大量消費を前提としてきたファッション産業から脱却し、「サステナビリティを実現する手段としてのサーキュラーエコノミーをブランドコンセプト」に、さまざまな活動を展開しています。

BIOLOGIC PHILOSOPHYが掲げる「サーキュラーエコノミーの3原則」

その取り組みのひとつが、人にも環境にも優しく、耐久性にも優れた「サーキュラー素材」の開発です。その第一弾として販売されているのが、スペインのRECOVER(リサイクルコットンとリサイクルポリエステル)、トルコのISKO (リサイクルコットンデニム)、オーストリアのレンチング社のテンセル™ブランドのリヨセル繊維(再生可能な木材から作られた環境配慮型素材)を使用した製品。いずれも高い技術力をメーカーを巻き込むことで、「サーキュラーエコノミー」という物語にマッチするマテリアルとプロダクトを、共創的に生み出しているのです。

「共創」こそが、ビジネスを加速する

BIOLOGIC PHILOSOPHYが巻き込むのは、メーカーだけではありません。彼らはサーキュラーエコノミーの実現のために連携する企業や個人を「仲間」と呼び、ともにさまざまなアクションを展開しています。例えば、愛媛を中心にクリーニング事業を展開する株式会社清水屋とのコラボレーションでは、同社が手がける環境負荷の低い洗剤をBIOLOGIC PHILOSOPHYのオンラインショップで販売。同時にオンラインショップでは、洗濯のプロである清水屋が監修した「ビオロジックフィロソフィ製品を長くご愛用頂くためのお洗濯方法」が紹介されています。まさに両社の強みを活かしながら、「サーキュラーエコノミー」という物語をともに紡いでいる。ほかにもBIOLOGIC PHILOSOPHYは、跡見学園女子大学の学生と協業でグリーンファッションについて発信する動画を制作するなど、共創的なアクションに長けた、まさしく「ナラティブ・ブランド」であると言えるでしょう。


Glossier、BIOLOGIC PHILOSOPHYというふたつのブランドの取り組みから、D2Cブランドがいかに各ステークホルダーと「物語」を共有し、共創構造を築くことでビジネスを加速しているのかが見えてきました。ナラティブを通じて顧客やステークホルダーとの強い結びつきをつくることは、D2Cブランドに限らずあらゆる企業やブランドの持続可能性を高めてくれるはずです。

「Narrative Genes ~ナラティブの遺伝子たち~」

企業と社会の関係性が見直される時代に注目が集まる「ナラティブ」を
PRストラテジスト・本田哲也を中心に、企業経営、ブランディングの先駆者と共に考えるウェブサイト。

「ナラティブ」とは、企業と消費者(生活者、ユーザー)との「共体験」の物語のこと。
企業経営において重要な「共創」に着目した、新たなアプローチ概念です。

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