クリエイターも視聴者も、巻き込んでゆく。ディズニーに学ぶ、共創的ナラティブの紡ぎ方
世界最高峰のエンターテイメント企業、ウォルト・ディズニー・カンパニー。彼らは作品の力で観客を魅了する一流のストーリーテラーであるとともに、そのビジネスに多くのステークホルダーを巻き込んでいく一流のナラティブの紡ぎ手でもあります。今回はそんなディズニーが手がける映像作家発掘・支援プロジェクト「Disney Launchpad:Shorts Incubator」にフォーカス。そのナラティブの共創構造を分析していきます。
「コンテンツにおける多様性」という一貫したナラティブ
ディズニーが2019年に立ち上げた「Disney Launchpad:Shorts Incubator」は、さまざまなバックグラウンドを持つ新世代の映像作家を発掘・支援し、彼らの個性的な視点で描かれた作品を世界へと配信するプロジェクト。第一弾は6人の作家による「発見」をテーマにした短編作品です。ではなぜディズニーはこのようなプロジェクトを展開しているのでしょうか。
プレスリリースによると、ディズニーがこのプロジェクトに乗り出した目的は「多様性のある作品を増やしていくこと」にあるとされています。しかし、ここで注意すべきなのは、彼らが作品の多様性にこだわるのは、コンテンツ戦略上の理由からではない、ということです。ウォルト・ディズニー・ジャパンのWebサイトでは、彼らが「コンテンツにおける多様性」を重視する理由が、明確に示されています。
プレスリリースによると、ディズニーがこのプロジェクトに乗り出した目的は「多様性のある作品を増やしていくこと」にあるとされています。しかし、ここで注意すべきなのは、彼らが作品の多様性にこだわるのは、コンテンツ戦略上の理由からではない、ということです。ウォルト・ディズニー・ジャパンのWebサイトでは、彼らが「コンテンツにおける多様性」を重視する理由が、明確に示されています。
ディズニーは、消費者や私たちを取り巻く世界の文化や背景に存在する
多様性を反映させることに真摯に取り組んでいます。
私たちのストーリーテリング、コンテンツ、エンターテイメント体験における多様性は、
会社の成長と存続に不可欠であると確信しています。
多様性を反映させることに真摯に取り組んでいます。
私たちのストーリーテリング、コンテンツ、エンターテイメント体験における多様性は、
会社の成長と存続に不可欠であると確信しています。
つまり「コンテンツにおける多様性」は、彼らの社会的存在意義と不可分に結びついているのです。こうした文脈と踏まえると、「Disney Launchpad:Shorts Incubator」は単なる新人発掘プロジェクトではなく、ディズニーが一貫して語ってきた「コンテンツにおける多様性」というナラティブを強化するための取り組みだと言えるでしょう。
語るのはディズニーではなく、クリエイター
🄫 2021 Disney
ナラティブが「物語的な共創構造」であることも、ディズニーは熟知しています。彼らは決して、クリエイターに「ディズニーの物語」を語らせようとはしません。実際に、6人の映像作家の内のひとりであるモキーシー・ペン監督はインタビューに答えて、次のように語っています。
僕はディズニー的なストーリーを語ろうとしていたわけじゃありません。
ただ、自分の心にとても響くストーリーを、僕にとって意味があるストーリーを語りたかっただけなんです。
なので、僕が子どもの頃に起きたことを思い出しました。
そして、僕の人生に基づいたストーリーを書きました。
ただ、自分の心にとても響くストーリーを、僕にとって意味があるストーリーを語りたかっただけなんです。
なので、僕が子どもの頃に起きたことを思い出しました。
そして、僕の人生に基づいたストーリーを書きました。
ところが、こうした言葉とは裏腹に、モキーシー・ペン監督の『リトル・プリン(セ)ス』は、これまでのディズニー作品を逸脱するものではありません。むしろ「ありのままの自分を見つけ、それを肯定すること」を軸としたそのストーリーは、『アナと雪の女王』に代表される近年のディズニー作品を継承しているようにすら感じられます。しかし、それは監督が「ディズニー的なストーリー」を意識したからではありません。繰り返しになりますが、彼はあくまで「自分の心にとても響くストーリー」を語っているだけなのです。にもかかわらず、なぜか従来のディズニー作品と響き合うような物語が立ち上がってくる。これこそディズニーのナラティブが、共創的に機能している何よりの証拠です。
舞台裏を明かすことで、より多くのステークホルダーを巻き込む
出典:Walt Disney Studios公式YouTubeチャンネル
同プロジェクトでは、ナラティブの共創構造を強化するために、さらにもうひとつの仕掛けが用意されていました。映画本編に先駆けて、YouTube上でメイキング映像を含む特別映像が公開されたのです。そこではフェイスシールドとマスクをつけた監督とスタッフが、キャストとともに懸命に撮影に取り組む様子が映し出されます。コロナ禍という誰もが予想だにしなかった状況においても、決して諦めずに映画づくりに挑む。そんな強烈なメッセージは、恐らく二種類のステークホルダーに向けて語られたものです。
まずは一般の視聴者。「困難に挑む若き映像作家」という物語に共感した彼らは、「視聴する」「応援する」「レビューする」といった形で、ナラティブへと巻き込まれていきます。もうひとつの宛先は、これから第二弾、第三弾の「Disney Launchpad:Shorts Incubator」への応募を検討しているクリエイターたち。「どんな状況でもクリエイターに寄り添うディズニー」という物語は、どんな美辞麗句よりも雄弁にクリエイターをディズニーのナラティブへと誘い込むでしょう。
まずは一般の視聴者。「困難に挑む若き映像作家」という物語に共感した彼らは、「視聴する」「応援する」「レビューする」といった形で、ナラティブへと巻き込まれていきます。もうひとつの宛先は、これから第二弾、第三弾の「Disney Launchpad:Shorts Incubator」への応募を検討しているクリエイターたち。「どんな状況でもクリエイターに寄り添うディズニー」という物語は、どんな美辞麗句よりも雄弁にクリエイターをディズニーのナラティブへと誘い込むでしょう。
多様性を「発見」する6本の映像作品
ここまで「Disney Launchpad:Shorts Incubator」というプロジェクトが、いかに緻密なナラティブ構造を有しているかを分析してきました。しかし、このプロジェクトが羊頭狗肉で終わっていないのは、何よりもそれぞれの短編作品がナラティブに負けないだけの強度を備えているからにほかなりません。
先述した『リトル・プリン(セ)ス』をはじめ、母親を亡くした主人公が子どもとの交流を通じて悲しみを癒す『トラになろう』、文化が存在しなくなった世界で伝統を守ろうと奮闘するメキシコ系アメリカ人女性を描いた『最後のチュパカブラ』など、いずれの作品も世界の多様性を気付かせてくれる作品揃いです。
コンテンツの多様性に着目し、ディズニーではなく、様々なバックグラウンドを持つクリエイター自身に「自分の心に響くストーリー」を語ってもらう。そしてその舞台裏をも見せることで、ステークホルダーの共感を生み、ナラティブの共創構造を生み出していく。ディズニーの新プロジェクトにも、共創的なナラティブの紡ぎ方の大きなヒントがありそうです。
先述した『リトル・プリン(セ)ス』をはじめ、母親を亡くした主人公が子どもとの交流を通じて悲しみを癒す『トラになろう』、文化が存在しなくなった世界で伝統を守ろうと奮闘するメキシコ系アメリカ人女性を描いた『最後のチュパカブラ』など、いずれの作品も世界の多様性を気付かせてくれる作品揃いです。
コンテンツの多様性に着目し、ディズニーではなく、様々なバックグラウンドを持つクリエイター自身に「自分の心に響くストーリー」を語ってもらう。そしてその舞台裏をも見せることで、ステークホルダーの共感を生み、ナラティブの共創構造を生み出していく。ディズニーの新プロジェクトにも、共創的なナラティブの紡ぎ方の大きなヒントがありそうです。
“Disney Launchpad:Shorts Incubator”の第一弾は、ディズニー公式動画サービス「Disney +」にて配信中
「Narrative Genes ~ナラティブの遺伝子たち~」
企業と社会の関係性が見直される時代に注目が集まる「ナラティブ」を
PRストラテジスト・本田哲也を中心に、企業経営、ブランディングの先駆者と共に考えるウェブサイト。
「ナラティブ」とは、企業と消費者(生活者、ユーザー)との「共体験」の物語のこと。
企業経営において重要な「共創」に着目した、新たなアプローチ概念です。