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<ゼスプリ インターナショナル ジャパン猪股氏 ×本田事務所本田哲也>大人気・キウイブラザーズを生み出したゼスプリのナラティブ戦略

<ゼスプリ インターナショナル ジャパン猪股氏 ×本田事務所本田哲也>大人気・キウイブラザーズを生み出したゼスプリのナラティブ戦略

2022年11月に、フルリニューアルから10年を迎える東洋経済オンラインが「社会を巻き込む企業ブランディング」をテーマに記念イベントを開催しました。今回は、社会と顧客を「捉える」ブランディングとは~社会×企業×顧客を「物語」で紡げ~というテーマで、東洋経済新報社 東洋経済オンライン編集部長 武政 秀明氏のモデレートのもと行われた、ゼスプリ インターナショナル ジャパン株式会社 APACマーケティング本部長猪股 可奈子氏と本田 哲也の対談の様子をレポートします。

「健康になるには苦しむことが必要」という固定概念を覆すブランドパーパス

武政:猪股さん、本日はよろしくお願いいたします。最初に、ゼスプリのマーケティングをどのように進めているのかについてお教えください。

猪股:よろしくお願いします。まず、昨年のキャンペーン事例を簡単にご説明させていただきます。2020年にゼスプリが挑戦したのは、「健康でいることは難しい」という日本人の認識を、「ヘルシーは好きなことを楽しみながら実現できる」という認識に変えること。その中でキウイについても、美味しく栄養がたっぷりであることを認識してもらえるよう、コミュニケーション戦略を組み立てました。

実際のコミュニケーションには、「ヘルシーは楽しもう」というメッセージを伝えるため、キウイブラザーズが登場するTVCMを展開。CM楽曲の楽譜をウェブで公開するなど、「楽しいヘルシー」を訴求し、その他にも「楽しめるヘルシー」という考え方を提案する新聞広告や、ウェブ・SNSで自身の好きなヘルシーを紹介する企画など、消費者を巻き込んだ企画を実施しました。

結果として キャンペーン参加者が約90万人を超えるなど、多くの方に共感いただくことができました。さらに大物ミュージシャンのミュージックビデオへの出演依頼や、メディアからの取材依頼、CM好感度年間総合1位などの大きな反響を獲得。他にもキウイフルーツがメジャーフルーツのトップ3に入ったり、売上が過去最高を記録したりと、これまでの歴史を塗り替える結果を得ることができました。
武政:ゼスプリキウイをたくさん買うとグッズがもらえるそうですが、見つからないほど人気だそうですね。これは、どう仕掛けていったのでしょうか。

猪股:今日のテーマに関わる部分に関して言えば、実はキウイブラザーズというキャラクター自体はそこまで重要なポイントではありません。ナラティブがテーマということで、最初にブランドがどんなパーパスを持ち、どういう風に社会の中で存在意義を確立しているのかについて、お話したいと思います。

去年から我々はブランドのタグラインを、グローバル共通で「ヘルシーを、やみつきに。」英語で「Make your healthy irresistible」で展開しています。これは、消費者のインサイトを理解した上で、ブランドの役割を定義する過程の中で作られたコンセプトですが、伝えたいのは「ヘルシーはもっと楽しんでいいもの」だということです。特に日本やアジアでは、辛いことをしなければ健康になれないと思っている人が多いです。

実際日本人は他の国の方々に比べると、健康な面がたくさんありながらも、そういった意識が強い。去年から注力しているキャンペーンでは、もっとヘルシーを自分らしく楽しくしていいんですよというブランドの考えを消費者の皆さまに届けています。

本田:このキャンペーンは非常に有名ですし、可愛らしいキウイブラザーズの印象が強いですが、その背後にあるお話は非常に勉強になります。体を鍛えるとか健康になるために、自分を痛めつけるのが好きな人もいますよね。ただそれもある種の先入観や呪いなのかもしれません。それを「ヘルシーを、やみつきに。」というタグラインで、もっと楽しんでいいんだよという風に、パーセプションを変える。その上でキウイに結びつけるというのは、すごく素晴らしく練られた構造だと思います。

原点は生産者の想いにある

武政:ブランドパーパスは「ヘルシーを、やみつきに。」とのことですが、ゼスプリの歴史を振り返った時に、そこに至るまでの過程ではどのような議論を経たのでしょうか?

猪股:ゼスプリの場合、製品としてのゼスプリというブランドと、企業としてのコーポレートブランドとの二つがあります。コーポレートとしてのパーパスは、「ヘルシーを、やみつきに。」というブランドのコミュニケーションのタグラインよりも、一つ上のレベルのものであり、消費者に関わらず、他のステークホルダーも含めた上で、会社の存在意義を定義しているものです。

それが、『キウイフルーツという小さな果実の恵みを通して、世界中の人々・コミュニティ・環境の発展に、大きく貢献するということ。』です。これはゼスプリの企業の成り立ちにも関連しています。実は弊社は株主が全てニュージーランドのキウイフルーツの生産者関係の方々であり、会社のリターンは全て生産者の方々に戻っていく構造になっています。

どのように株主や生産者の皆さんへのリターンを最大化するか。それと同時に、我々のビジネスは自然という、コントロールができない要素と結びついていますので、どのように環境と共存していくか。そしてその製品を通して、消費者の皆様もしくは市場の小売り関係者の皆様、流通関係者の皆様、そういったステークホルダーの皆様と、どうビジネスを繁栄させていくのか。これらの要素を製品よりもハイレベルな粒度に落とし、パーパスを設定しています。
武政:企業としてのパーパスがしっかりしているからこそ、「ヘルシーを、やみつきに。」というタグラインが生まれるわけですね。

本田:ゼスプリという企業の成り立ちのお話を伺ってますます思うのは、自分たちが作っているものを通じて、人々・コミュニティ・環境が繁栄し、良くしていくという生産者の方々の思いが随所に現れているということです。共創的な発想におけるパーパスが設定されているからこそ、ぶれないのだろうと思いましたね。

タレント起用からキウイブラザーズへ。その裏側とは

武政:元々、売上やシェアは好調だったと思いますが、CMを芸能人が出演するものから大胆に変えたのは何が理由だったのでしょうか?

猪股:私は2015年にゼスプリに入社しましたが、当時、消費者調査で「ゼスプリで何を知ったか」と聞くと、出てくるのがほとんど芸能人の名前でした。キウイはどう身体にいいのか、どんな味がするか、食べ方などが出てこないことが、ブランドマーケティングに携わってきた私からすると驚きでした。

単発的なプロモーションの効果や認知はあるかもしれませんが、ブランドの価値を高めていくためには、もう少し設計が必要だと考え、最初にキャンペーン全体の設計図を引き直す作業を行いました。

そもそもキウイフルーツだけでなく、フルーツ全般は日本人の皆さんからすると、生活の中でそこまで必須なものではありません。牛乳や納豆など、絶対切らせたくないものに比べると、そこまで必須ではない。特にフルーツの中でもキウイフルーツはプレゼンスが低い上に、店頭に行った時に「季節の果物だ」と心躍るような見た目でもない。そこで、もっとキウイフルーツそのものを主役化して、皆さまに好きになってもらい、頭の片隅に何かしら残るような構造が必要なのではないかと議論を重ね、こういった形に落ち着きました。

出典:https://www.zespri.com/ja-JP/kiwibrothers/index

武政:なるほど。栄養価などの機能面もしっかり伝えないと消費者の購買に繋がらないという意味で、それらを関連付けるために何か手を打ったのでしょうか。

猪股:そうですね。おっしゃる通り、このキャラだけが浸透しても多少カテゴリーの認知は上がれども芸能人をCMに起用させていただいた時と同じような結果になってしまいます。実は、キウイフルーツの健康価値や栄養面のPRは、メインの広告コミュニケーションとは別にたくさんしています。
外部の研究者の方とキウイフルーツを使った健康に関する研究を進めて、その成果を発信したり、サンプリングでお母さん方に食べていただいて、野菜が嫌いなお子さん達にどれだけ手軽に栄養を取ってもらえるかということを体験して頂き、レポートを書いていただくことなども行いました。

本田:私はPR業界にいるものとして、キウイブラザーズを認識しながらも、そういった啓発の部分も意識的に見ていましたが、相当いろんな情報を出されているという印象です。
情報発信は同時多発的でなければいけません。やはり消費者の中でいくつかの異なるアングルの情報が結びついた時に初めて、キウイのマインドシェアが上がっていきます。キウイブラザーズを推すだけではなく、多方面からの情報の発信を上手にされていた印象があります。

いくら思い入れが強くても消費者視点をブレずに守る意思決定方法

武政:CMで出てきた「好きなことなら続けられる」というメッセージは、さまざまな人に当てはまると思います。ビジネスでも得意なものを伸ばす、苦手なものをやらなくて良いという風潮が強くなってきていると思いますが、そういった世の中的な流れを狙った背景もあったのでしょうか。

猪股:去年のテレビCMを作る過程の中で、歌詞を作る時に最初に刺さったのが「好きなことなら続けられる」という言葉です。肝になる言葉だから、この言葉をメインにキャンペーンを設計しました。
多くの消費者の方が最初にブランドに接して、一回限りでしかない接触の中で、何に心動かされるんだろうというのを常にフラットな形で見て、それを広告代理店さんも含めたチームとディスカッションをしながら、より膨らませています。

本田:消費者の方のインサイトだけでなく、社会的なインサイトも押さえていて、素晴らしいと思います。やはり良いナラティブは消費者や社会的なインサイトを押さえていないと成立しませんし、独りよがりなストーリーになってしまいます。ですから、地道なディスカッションを重ねていく必要があると思います。

猪股:おっしゃる通りで、自分たちがすごく良いことを言ってる感覚に酔ってしまう時もあります。ですから、本当にそれは消費者にとって真実なのかという議論はチームでもよくしています。

本田:ブランド側に立っていると、大事にしているブランドだからこそ一方的になることは多くあると思います。例えば客観性の担保など、広告代理店とのディスカッションも含めて、ゼスプリの中での工夫したところはありますか?

猪股:常に消費者目線で、自分たちも問い続けています。良くも悪くもいろいろな文化を持ち、それぞれ経験豊富な人が一同に介してキャンペーンを作っています。皆が納得することも大事ですし、自分たちが疑問に思ったことをきちんと言い合える間柄が重要だと思います。

例えば、広告代理店の皆さんも言われた通りに何かを作るという関係でなく、お互い腹を割って納得していけるような雰囲気作りを行います。誰か一人が正しいわけでもありません。簡単なテクニックで言えば、何か提案をもらった時には、そこにいるチーム全員の意見を位の下の方の人から聞きます。そうでないと上司の意見を気にして答えづらくなってしまうので。私は最後までしゃべりません。

本田:それはそうですよね。言いづらくなってしまいますからね。

猪股:その場にいる人は必ず発言をするというルールも設けています。

本田:チームメンバーや広告代理店など、外部も含めたステークホルダーが腹落ちしないものが世に出た時に成功するかと言うと、難しいと思います。そういう姿勢が最終的な成功に繋がっていると思いますね。

経営者はナラティブオーナーであれ

武政:最後に、ゼスプリのようにナラティブカンパニーになるために、イベントをご覧になっている経営者やブランディング担当の方はどういう点に気を付けるべきなのでしょうか。

本田:ナラティブであることを継続していくことは経営者の仕事です。広報部や宣伝部だけでできることではありません。経営層の考えがマーケティングコミュニケーションや人の採用など、コミュニケーションの随所に宿っていくことが重要だと思います。

猪股:本田さんがおっしゃるように、社会の中での自分たちの存在意義をきちんと定義して、経営者がビジョンを持ってチームをドライブしていくことがすごく大事だと思います。

武政:ゼスプリではそういったコミュニケーションがなされているのでしょうか?

猪股:はい、皆さんにご覧頂いたのはパーパスのステートメントだけですが、このステートメントを作るまでも現CEOがリーダーとなって、適宜シェアされ、我々もフィードバックをする機会がありました。
このパーパスによって、自分たちにはどんなミッションが与えられるのか。そしてそれを各部署に落としていくとどんなことがあるのか。一貫した形で、コミュニケーションを設計しています。

本田:ますますゼスプリのファンになってきました。素晴らしいですね。

猪股:結果として、一人ひとりのモチベーションの保ち方も違ってきます。ビジネスの結果が売上やシェアだけではなく、一つひとつのアクションによって、社会に還元できることがある。会社の大きなパーパスに向かって貢献できているという自覚を持つこともでき、その点においても効果的だと思います。

武政:企業の存在意義は、社会に対して何ができているかという風に社会起点に変わってきているし、さらに自分たちの存在意義を突き詰めていくことが大切だということですよね。

本田:そうだと思います。

武政:猪股さん、本田さん改めて本日はありがとうございました。

「Narrative Genes ~ナラティブの遺伝子たち~」

企業と社会の関係性が見直される時代に注目が集まる「ナラティブ」を
PRストラテジスト・本田哲也を中心に、企業経営、ブランディングの先駆者と共に考えるウェブサイト。

「ナラティブ」とは、企業と消費者(生活者、ユーザー)との「共体験」の物語のこと。
企業経営において重要な「共創」に着目した、新たなアプローチ概念です。

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