1. TOPNarrative GENEs(ナラティブ ジーンズ)
  2. <株式会社ナレッジワーク 麻野耕司 × 本田事務所 本田哲也>組織づくりや採用に活かす「ナラティブ」の力
<株式会社ナレッジワーク 麻野耕司 × 本田事務所 本田哲也>組織づくりや採用に活かす「ナラティブ」の力

<株式会社ナレッジワーク 麻野耕司 × 本田事務所 本田哲也>組織づくりや採用に活かす「ナラティブ」の力

元リンクアンドモチベーション取締役であり、2020年4月に企業向けSaaSの開発を手がける株式会社ナレッジワークを創業した麻野耕司さん。チームや組織論にも詳しい麻野さんは、本田哲也の著書『ナラティブカンパニー』を読み、ナラティブをどうすれば組織づくりに生かせるかを考えていたと言います。
今回は麻野さんがモデレーター、本田がゲストとして登壇した、Wantedly主催オンラインイベントFUZE2021『組織づくりを「再定義」せよ。変革をもたらす「ナラティブ」の力』のトークセッションの様子をレポートします。

企業経営への重要性が増しつつあるナラティブ

麻野:実はこのセッションへの参加が決まる前に、『ナラティブカンパニー』を読んでいたんです。すごく面白くて、これを自社に実装できないかと考えていたところ、このセッションへの登壇依頼をいただきました。

本田さんの本職はPRマーケティングですが、この本の内容は、企業活動のさまざまな場面に適用できるのではと考えています。ナラティブという概念を組織や採用にどうやって活用できるのかについて、具体例を含めてお聞きできればと思います。

まずは、大前提として「ナラティブとは何か」について、簡単に教えてください。

本田:私の書籍では、ナラティブは「物語的な共創構造」と定義しています。よく聞かれるのが「ストーリー」との違いです。ストーリーは、主役が企業で、時間軸にははじめと終わりがある、そして舞台は競合やマーケットです。一方でナラティブは、主役は求職者や従業員で、現在進行形で進んでおり、舞台は社会全体となります。
麻野:ナラティブが企業経営において必要とされている理由は何でしょうか?

本田:製品を提供する企業と購入する消費者、雇用する企業と雇用される労働者といった上下関係がなくなり、フラット化しているのが1つの理由だと感じています。最近では、SDGsやESG経営といった社会起点でモノを買ったり、仕事を選んだりすることも一般的になりました。

「マルチステークホルダー」というキーワードもよく使われます。これまでは、株主には株主向けのメッセージを発信するなど、ステークホルダーごとに個別の対応をしていました。しかし現在は、ステークホルダーが複雑化し、横のつながりによって、受け手が溶け合っています。株主向けのストーリーを出しても、それが消費者や従業員などの別のステークホルダーに伝わることが当たり前のように起こりうるのです。

麻野:SNS普及の影響も大きそうですね。最近では、消費者の方が不誠実な対応をされたという発信がSNS上に出て、それによって株価が下落したニュースも聞きます。

本田:そうなんですよ。これはいい面でもあり、難しい面でもあります。事実として、間違いなく社会がこの方向性に進んでいると感じています。

個人の「半径5mのナラティブ」と企業のナラティブに接点を

麻野:前職では、BtoBのITシステムのマーケティングをしていました。そこでは、最初に広告でたくさん見込み客を集めて、インサイドセールスが電話で絞り、最終的にフィールドセールスが受注する。いわゆる「ファネル」と呼ばれる、ふるいにかけて絞り込んでいく形が一般的でした。しかしこの形式では、規模の経済でしか勝てません。それよりも「既存の利用者が共感し、その共感の輪が広がっていく」マーケティングができないかと考えていたんです。

本田:同感です。ファネルの考え方は、母集団に属している人たちが比較的同じ価値観を持っているという前提にあります。しかし、今の時代は価値観も多様化していて、同じ価値観でふるいをかけることが現実的ではありません。

麻野:採用でも同じことが言えますよね。10年以上前のことですが、30人採用するために、3万人にエントリーして、5000人に面接していました。たくさん集められるほど良いと考えていたのです。そうではなく、既存の社員や接点をもった応募者同士で共感を広げていくような形に変えるべきだと感じています。

本田:入社する側も「求人倍率何百倍を勝ち抜いた」を誇りに思っていた時代でしたね。今は「人気企業に就職する」のではなく「人気ナラティブに就職する」という発想に変わってきていると思います。

麻野:求職者を主人公と捉えて、求職者側には「自分がどんなナラティブに参加したいか」を考えてもらう。企業側は「うちの会社にはこんなナラティブがあるよ」と語りかけて、一人ひとりを巻き込んでいく。このような流れができたら、採用で優位性が持てると思いますか?

本田:強いと思いますね。生活者にも従業員にも、一人ひとり物語があります。若い世代と話すとよく感じますが、巨大な物語よりも、半径5mくらいの、自分の家族や仲間を大事にすることに関心を抱いている方が非常に多いんです。一人ひとりのナラティブが、企業が紡ぎたい物語とどんな接点があるかが重要なポイントになると思います。

麻野:「半径5mのナラティブ」は面白い視点ですね。半径5mの自分の物語と、企業の物語とのつながりが大事になってくるのですね。

社員が「ナラティブに参加している」と感じる企業の強さ

麻野:ナラティブカンパニーにはどのような企業がありますか?

本田:よく私が説明するのが、パタゴニアやAppleの例です。

日本においては、メルカリが非常にナラティブアプローチの強い企業だと感じています。従業員の方々のふるまいや軽い会話にも、ナラティブへの参加の意識が透けて見えるような気がしています。

麻野:私の会社にもメルカリ出身のエンジニアがいるのですが、メルカリのことをよく話していますね。「こんな考え方で、こういった施策をやっていた」と背景から語ってくれます。

本田:OBやOGも含めてその意識を持てるのがすごいですよね。企業に入社したというより、ナラティブに参加したという意識が強いと思います。

自社のナラティブを描く際の落とし穴とは

麻野:ナラティブの必要性を理解したものの、結局どうすればいいのか疑問を感じている方も多いと思います。その取っ掛かりになればと思い、僕の会社である株式会社ナレッジワークをもとに、書籍にあるナラティブスクリプトを作成してみました。ぜひ本田さんからフィードバックをいただければと思います。

まず、このシートの構成について本田さんから説明していただけますか?
本田:これは私が実際に使っているものです。麻野さんのいう通り、ナラティブの概念が分かっても、すぐに自社のナラティブを描けるわけではありません。そのために、必要な要素を整理しています。

1つ目は、社会的な大局観と課題提示です。よくある間違いが、「我々は10年後にこうなります」と会社のビジョンから始めてしまうこと。まずは社会の状態があって、そこにどんなボトルネックがあるのか、どんなチャンスがあるのかを明らかにします。

2つ目は、自社のオーセンティシティないしブランドの優位性です。オーセンティシティとは、「なぜあなたの企業やブランドがここに出てくる必要があるのか」という正当性を示すものです。社会課題はある。しかし、ほかに解決できる企業があるのであれば、ナラティブに登場する意味はありません。「なぜこの企業でなければいけないのか」を押さえることが必要です。

3つ目は、未来のステークホルダー体験です。皆さん悩まれる部分ですね。これはつまり、具体的に5年後、10年後ごとのステークホルダーの姿をイメージするものです。たとえば、「持続可能な社会に向けて」などを入れても、抽象度が高すぎて綺麗事に終わってしまいます。

オーセンティシティは、想いではなくエビデンスを

麻野:改めてご説明を聞くと、僕が書いた内容は少し抽象的すぎるかもしれません(笑)。まずはナラティブスクリプトのたたき台を見ていただけますか?
ナレッジワークについて簡単に説明すると、企業向けのSaaSソフトウェアを開発・提供している会社です。僕は前職で組織のエンゲージメントをテーマにしていたので、この会社では仕事のイネーブルメントと言われる能力向上や生活創出をしていきたいと考えています。

パーパスである「あらゆる人にできる喜びが巡る日々を届ける」とは、canが増えるイメージです。例えば自転車に乗っていると、楽しいですよね。早く目的地に着くとか、風が吹いてきて気持ちいいとか、景色が開けてきて綺麗とか、さまざまな要素があります。でも、自転車に乗れないと、その面白さが何一つ味わえません。自転車に乗れるようになるためには補助輪や、最初は親が後ろから押すなどの手助けが必要です。働く人にとっての補助輪のような存在になりたいと考え、このパーパスを定めました。

社会的な大局観と課題は、組織側と個人側に分けて考えました。個人の成果創出や能力向上に貢献し、企業の環境や機会を整備できれば、双方にとってハッピーになると考えています。

自社のオーセンティシティないしブランドの優位性は、正直自信のない部分ですが、僕たちがプロダクトをつくるときに掲げている4つの方針をもとに作成しました。「All people」は、ITリテラシーが低い人でも使えるようなものを作りたい。「Action」は、知識だけでなく、行動の変化まで支援したい。「Access」は社内の情報を円滑に共有したい。「Automation」は、自動化で、不要なものを取り除いて確実に実行したいという想いです。ここまでで、フィードバックやアドバイスをいただけますか?

本田:パーパスはすごくいいと思いました。「canが増えていく」というのが、一方的ではなく、個人に寄り添う形で、ナラティブに即していると感じます。社会課題に関しても、私自身も共感する部分でした。

ただ残念ながら、皆さんつまずくポイントであるオーセンティシティは改善の余地がありますね。ここで話すべきは「なぜ我々がそれをするのか」です。想いというよりも、エビデンスですね。ひょっとすると、麻野さんご自身の経験などを入れたほうがいいかもしれません。かつそれが、社会的な大局観と繋がっているとベストです。

麻野:では、「企業向けのソフトウェアというのは管理職や管理部門向けに作られているので、現場のユーザビリティが後回しになっている。だからイネーブルメントが実現できていない。でも僕たちは利用者目線でプロダクトを作っているのでそれが実現できます」みたいなのは、いかがでしょうか?

本田:すごく良くなったと思います!

個人と企業のナラティブが繋がった先にある、企業の成功

麻野:本田さんに弊社のナラティブスクリプトを直接フィードバックしていただけて非常にありがたいです。未来のステークホルダー体験の部分は、「利用者向けにユーザービリティが高いソフトウェアを届けたら、顧客の従業員は会社こんな体験に変わっていますよ」のような形でどうでしょうか?
本田:具体的であれば具体的であるほどいいですね。私が使うときは、セリフを入れています。たとえば、成功した5年後に新聞で「導入企業のAさんはこう語る」と書かれているような。そのレベルの解像度で書いています。

麻野:面白いですね。これを組織人事に落とし込むとしたら、理想状態が5年後に達成したときに、その社員がどんなコメントをしているのかを書けばいいのですね。

本田:そうですね。このスクリプトの面白いところは、未来の記事が出来上がることです。そうすると経営陣や現場も含めて「こうなったら最高ですね」という合意形成を作ることができます。

麻野:最後の、実行のアイデアについてはどう書けばいいでしょうか?

本田:この部分については目的にもよります。マーケティングを意識したブランドナラティブなのか、従業員の採用を目的としているのかで、出すべき答えが変わってくると思います。

麻野:家に帰ってじっくり考えてみたいと思います。今日は本当にありがとうございました。組織や採用、マーケティングにおいても、ナラティブの考え方を生かしていきたいと思います。最後に本田さんからもメッセージをお願いします。

本田:今日は、「企業がつくるナラティブとは」という話をしましたが、皆さん一人ひとりに絶対にナラティブがあるはずです。ただ、それを押し殺して仕事をしていたり、それは仕事とは関係がないと考える発想がこれまではあったかもしれません。僕は、一人ひとりのナラティブと企業のブランドのナラティブが繋がることに企業の成功があると考えています。ぜひ皆さんも、自分自身のナラティブを考えてみてはいかがでしょうか。

「Narrative Genes ~ナラティブの遺伝子たち~」

企業と社会の関係性が見直される時代に注目が集まる「ナラティブ」を
PRストラテジスト・本田哲也を中心に、企業経営、ブランディングの先駆者と共に考えるウェブサイト。

「ナラティブ」とは、企業と消費者(生活者、ユーザー)との「共体験」の物語のこと。
企業経営において重要な「共創」に着目した、新たなアプローチ概念です。

TOP